大井川通信

大井川あたりの事ども

円融寺釈迦堂 東京都目黒区 (禅宗様建築ノート12)

東京23区で一番古いという室町建築の重要文化財。円融寺釈迦堂を「禅宗様建築」の仲間に分類することは、素人の僕でも抵抗がある。中世から近世にかけて、純粋に禅宗様の手法で建てられた建物が多くあり、そのように容易に和様化されないところに禅宗様のアイデンティティと魅力があると思う。

一方、和様には禅宗様の手法が取り入れられることも多く、この建物は和様と禅宗様とを折衷した建物というべきだろう。しかし、僕が我が禅宗建築ノートに加えるのは、別の思い入れがあるからだ。

僕の地元だった東京都には古建築の十分が少ない。だから円融寺のことは子どもの頃から気になっていた。だからまだ社会人なりたての頃だろうか、一度訪ねたことがある。私鉄の駅からのアクセスのある居場所にあり、結局見つけられなかった。その時のリベンジをしたいという思いがずっとあった。

今回は渋谷からバスで、すぐ近くのバス停で降りたのだが、かなり広い境内にもかかわらず路地の中に埋まるようにあって、やはり見つけにくかった。そうしてようやく出会えた円融寺釈迦堂の建物の外観は、まさに小ぶりの禅宗様仏堂そのままだったのだ。

僕が禅宗様にファンになったのは、軒反りのある屋根を左右に大きく広げた飛翔感あるフォルムに魅せられたからだ。屋根を高く支える組物や軸部もシンプルで精巧なデザインだから独自の生命力が感じられる。

この基準からみて、円融寺釈迦堂は立派な禅宗様だった。銅板葺の屋根のラインがとても美しい。やはり室町時代の建築だけあって、全体のデザインのバランスに神経が行き届いていて、江戸期の建物(たとえば高安寺観音堂)のようなぎこちなさがない。土間ではなく、床が張られているのも関東地方の禅宗様に見られる手法で、基礎との間に床と高欄の水平線が入ることで、建物の高さが緩和されて、より安定感のある姿となっている。(床や高欄がなく基礎から直接立ち上がったシルエットを想像すると、典型的な方三間禅宗様仏堂のプロポーションそのものになる)

禅宗様特有の細部である詰組がシンプルな出組だったり、扇垂木でなく並行垂木だったり、方三間ではなく奥行きが四間だったり、禅宗様としての不足を見つけることもできるが、正規の禅宗様でないのだから仕方ないだろう。

日差しは暖かいが風のとても強い日で、境内の土ぼこりを避けながら、40年ぶりに実現した釈迦堂との出会いを楽しんだ。