大井川通信

大井川あたりの事ども

2023-10-01から1ヶ月間の記事一覧

10月を振り返る

仕事で毎月の振り返りをするようになったのは、定年の数年前からだった。それ以来、仕事とプライベートとを合わせた一か月の生活を、月の終わりに振り返る習慣をもっている。これはなかなかいい。 今月、いつものように振り返ると、その活動の豊富さに驚いた…

こんな夢をみた(夜勤)

夢の場所は例によって、昔の実家である。古くて狭い木造の実家は、一階は大人が寝る居間と子供の寝る部屋が並んでいて、薄い引き戸で仕切られていた。プライバシーなんてものはほとんどない。 夢の中でよくある土地や建物の変形は、ここではあまりない。僕は…

大井の田んぼの中心で秋を祈る

秋の天皇賞で、世界最強と言われるイクイノックスの快勝とルメール騎手の笑顔のインタビューを見る。僕が競馬のレースを見始めてから、ちょうど二年がたったわけだ。ルメールのファンだから気分よく、日の傾いた大井川流域を歩く。 このところアスファルトの…

『ことにおいて後悔せず 戦後史としての自伝』 菅孝行 2023

菅孝行(1939-)は、僕が批評を読みだしたころの憧れの存在だった。演劇畑の出身で、物書きとしては演劇批評で頭角を現したが、僕が熱心に読んだのは『吉本隆明論』(1974年)などの思想論で、80年代に入ると岩波の哲学誌『思想』に身体論を連載するまでに…

『求眞雑記』を再読する

高橋一郎師の『求眞雑記』は、出会ったばかりの井手先生からすすめられて、まっさきに取り寄せて読んだ本だ。昭和32年発行の小冊子で、今ではネットの古書店をあたっても手に入れるのが難しい本だ。 運よく手に入れて読んでみると一気に引き付けられた。金光…

妻を鍼灸院に送り迎えする

運転の得意でない妻の送迎は僕の仕事だ。休日のスーパーや道の駅での買い物は送迎というより共同作業。水曜の晩のヨガ教室や、定期的な通院などは当然のように僕がハンドルを握る。習い事をする娘並みの高待遇だと思うのだが、あまり感謝はされていない。 こ…

『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』 フィリップ・K・ディック 1968

読書会の課題図書で読む。古い文庫本を持っていたが、きちっと読んだかどうか記憶が定かでない。映画『ブレードランナー』の印象が強すぎるためだ。 久しぶりに小説の世界に没頭できたような気がする。映画以上に原作がいい。徹底的に理詰めで論理的に構築さ…

一日ドックを受ける

昨年に続き、住宅地の向かいの岡にある病院で人間ドックを受ける。退職前の職場の関連で、何十年も遠方の病院に通っていたのだが、それと同じ光景が自宅と目と鼻の先で展開しているのは、なんとも違和感がある。幻を見ているようだ。 今回はゆううつだった。…

ワコール・リーカーミシン館の絵葉書

ネットのオークションで見つけた日本万国博覧会(1970)のパビリオンの絵葉書が届く。万博関連では高値のものも多いが、これは数百円だった。 ワコール・リッカーミシン館。平板な渦巻き状の白い建物の上に、大きな平たい円盤状の屋根をかかげた未来的なデザ…

行橋詣で(10月)

前回からの3週間は、ばたばたしていて落ち着いて金光教に取り組むことができなかった。それで、宿題をやっていない生徒のような気持ちで行橋に向かう。 高橋一郎先生の『求真雑記』を読み返すと、心が落ち着いてくる。日豊線にのりかえると景色が一変するよ…

詩人丸山薫のこと

今日は丸山薫の忌日だ。高校生の頃から好きな詩人だが、忌日を意識したことはなかった。秋たけなわで何かと忙しい時期だからかもしれないし、ことさら忌日を意識するような尖った存在感をもった文学者ではないということかもしれない。 このブログでも、何か…

近隣トラブル再び勃発か!?(延長戦)

これでいったんケリがついたとほっとしたのもつかの間。翌日、仕事から戻ると、妻がこんな報告をする。 昼間庭で草取りをしていたら、隣のおばさんが、駐車場の車に乗り込むときに、「こわい、こわい」とわざと聞こえるようにつぶやいたという。僕から何か対…

近隣トラブル再び勃発か?!(後半戦)

一斉清掃の朝、公園で隣家の御主人と顔を合わせる。我が家もそうだが、自治会の清掃に旦那さんだけが出てくる家は、なんとなく奥さんに主導権を握られている家のような気がする。 こういうときはためらわずにご主人のもとに挨拶に行って、例の件を話し、清掃…

近隣トラブル再び勃発か?!(前半戦)

昨年のケヤキの枯れ葉の問題で軋轢が生じた隣家との関係は、僕の献身的な清掃と、業者による選定と、ひたすらな平身低頭によって事なきをえたかに見えた。妻の方でもちゃんと話して和解できたという。 ところが、最近ちょっとした前兆があった。妻が隣の奥さ…

『野生の呼び声』 ジャック・ロンドン 1903

思想系読書会の課題図書。メンバーの中でも強面のアメリカ文学者高野さんの選書だ。高野さんは課題を二つあげている。一つは、この小説のもつ「現代的な意義」を示せ、というもの。もう一つは日本の文学(芸術)作品で似ている作品をあげよ、というもの。 正…

『正義の教室』 飲茶 2019

学芸大の大村龍太郎さんから薦められて読む。課題図書が渋滞していて、ずいぶん遅くなってしまったが、面白く読みやすかった。 様々な哲学説の解説がベースになっているのだが、もしこの内容が普通の入門書として書かれていたら、途中で退屈して投げ出してし…

あの白い小枝みたいなやつがほしい!

街を歩いたり、電車に乗ったりすると、耳に短い白い小枝みたいなものをひっかけている人をよく見かける。あれはいったいなんだろう? なんてことはさすがに僕でもありません。あれはワイヤレスのイヤホン。ずいぶん前から売り出されていることに、情弱の僕で…

次男の子育て(職業能力開発校試験)

9月から次男にハローワークの失業給付がでるようになった。もともと給与が低かったから、基本手当の割引率が低く、働いていた時とさほど変わらない給付がでる。うれしい反面、微妙な感じではある。また、給付額が多いので、僕の健康保険の被扶養者の収入限度…

『井月句集』 復本一郎編 2012

僕が漂泊の俳人井月(せいげつ 1822-1887)の事を知ったのは、芥川龍之介の短編『庭』のなかでの印象的な姿によってだったと思う。その後、つげ義春の漫画『無能の人』の中のエピソードで取り上げられたのには驚いた。 岩波文庫の句集を買ったのは、そんな…

こんな夢をみた(人間のどこが美しいか?)

何かの経緯で、どこかの私立学校で人権教育の講師をやることになった。年度途中で前任者が辞めることになって、教員でない僕にお鉢が回ってきたのだ。 谷のくぼみのような土地にある学校に降りてくると、校舎の窓から自分が授業する教室の明かりが見えた。教…

どうあげ先生と議論する

吉塚駅前のシアトルズベストコーヒーで、どうあげ先生と待ち合わせる。どうあげ先生は、もう10年以上のつきあいになる思想系の読書会仲間だが、この一年くらいは会をお休みしているから、ひさしぶりに話をすることになる。「どうあげ」は実は僕のつけたあだ…

馬場浦池「大非常」

夕方帰宅中にのぞくと、馬場浦池の栓がぬかれていて、ごぼごぼと水が流れ出している。このペースではすぐに水はなくなるだろうと翌朝見ると、小さな水たまりをのぞいてカラになっていた。 ため池の年間使用サイクルはよくわからないが、例年この時期に水抜き…

読書会であらためて考えたこと

読書会は、社会人になって以降、僕が物事を考える上での主戦場だった。とてもゆっくりと時間をかけてだけれども、大切な学びがあった。 僕は、長く哲学、批評の本をあつかう読書会に参加してきたが、そこで痛感してきたのは、とにかく話がかみ合わない、とい…

あの紙の輪回しを教えてくれたのは・・・

子どもの時の懐かしい本はこれだけで終わり、と断言してしまうと急に不安になる。あわよくば見つけたいと心に引っかかってきた本が、もう一冊くらいはあるのではないか。 大人になってから本屋さんや図書館で、子どもの工作の本の書棚の前にたちどまって、背…

あの多摩歩きのガイドブックは・・・

福音館小事典文庫の「ことわざ辞典」も手に入れて、いよいよ僕が執着する子ども時代の本も少なくなった。何度も思い出して懐かしく思うような本は、もうあと一冊、といっていい。 僕は今、大井川歩きと称して地元歩きをやっているが、振り返ってみると、子ど…

饒舌と沈黙 -安部文範小論-

安部さんについてはこのブログでもいくつか記事を書いてきたが、そこで触れていなくて最近になって気づいたことがある。とても重要な点なのに今まで思い至らなかったのだ。 安部さんは社交家でパーティー好きでおしゃべりな面も目立っていたが、自分自身にと…

安部文範遺稿集『ブラウン氏のおもいで』について(総括編)

行橋の宮田さんに、かつての東京の同人誌仲間の分を預け、その足で小倉のギャラリーソープで外田さんに会って美術関係者の分をまとめてあずけた。 そうすると後気になるのは、福岡方面への配布だ。これは安部さんが生前通った屋根裏貘のマスターがこころよく…

70代をディスってしまう

よく年齢で一回り違うという言い方をするが、10年ひと昔というたとえもある通り、世代の違いを10歳くらいの年齢差でみるのはたしかにわかりやすい。 30年以上離れると親世代とか大御所世代になるが、20歳の違いは「先生」世代ということになる。10歳の違いは…

泉鏡花を再読する

読書会の課題図書で『高野聖』が指定されたので、久しぶりに泉鏡花を読んでみる。 僕は、大学生の頃、泉鏡花が好きで図書館で全集をめくっていた時期がある。そのときは『歌行燈』を最高の小説だと(それほどたくさんの小説を読んでいないのにもかかわらず)…

「福音館小事典文庫」と再会する

僕は本好きなのにも関わらず、子どもの時の本をほとんど処分してしまった。これは同じく本好きであるにも関わらず、蔵書を本棚一箱に厳選していて、本を整理するのが趣味だった父親の影響、というかほとんど強制による。学校の教科書はおろか、子ども向きの…