大井川通信

大井川あたりの事ども

妻を鍼灸院に送り迎えする

運転の得意でない妻の送迎は僕の仕事だ。休日のスーパーや道の駅での買い物は送迎というより共同作業。水曜の晩のヨガ教室や、定期的な通院などは当然のように僕がハンドルを握る。習い事をする娘並みの高待遇だと思うのだが、あまり感謝はされていない。

この頃耳鳴りに悩んでいる妻は、いつも行く大型スーパーの前の鍼灸院に通い出して、よい結果が出ているようだ。これはありがたい。

僕は妻の治療中、フードコートで本を読んで、ついでに昼食をとることにした。

まずお総菜コーナーの海苔弁当410円を手にして、ペットボトルの冷たいお茶を買いに足を向ける。本当は同じお総菜メーカーが運営している食堂が店内にあって、そこのかつ丼が好物なのだが、500円オーバーだ。ここの海苔弁当はそこそこ美味しく、コストパフォーマンスを考慮した選択だ。

しかし、冷たいドリンクコーナーでお茶を選んでいるときに、あることに気づく。ここで100円近いお茶を買うなら、500円を少しオーバーする。それなら、お茶や冷水が飲み放題の定食屋で550円のかつ丼を食べるのとさして違わない。

危なかった。僕は、総菜コーナーに戻って、お弁当をそっと戻して勇んで定食屋に向かった。値段がさほど変わらないなら、熱々のかつ丼の方がいい。

ところが、ここでまた足が止まる。フードコートに飲み放題の紙コップの冷水器があることを思い出したのだ。なにもペットボトルのお茶にこだわる必要はないのだ。飲み物がタダなのは、定食屋とフードコートはイーブンイーブン。あとは本体の値段勝負だ。

僕はとっさの判断で身体の向きを機敏に変えて、もう一度総菜コーナーで海苔弁当を手に取り、それだけもってレジに向かった。

こうして僕は、妻を待つ間、まずまず美味しい海苔弁当を平らげ、紙コップの冷水を何倍も飲んだ次第。

帰りの車の中で、僕は、昼食をめぐるトリッキーな動きを説明し、自分の判断と選択がいかに正しかったか自慢をする。こういう時の妻の反応は、決まっている。あなたって、なんてスケールの小さい人間なの、とうんざりしたようにつぶやくのだ。

ここで終わってはさすがに気まずい。僕は、こうした「食をめぐる僕のせこさが妻に呆れられる」というエピソードがいかに知人に受けているか、を妻に追加で説明する。

すると僕の自虐ネタが、妻の攻撃本能をくすぐるのか彼女の笑いを誘い、車内がつまのま和やかな空気で満たされるのだ。めでたし、めでたし。