大井川通信

大井川あたりの事ども

思索ノート

『反哲学入門』 木田元 2007

2010年に文庫化されたものを購入していた。講談社学術文庫やちくま学芸文庫なら学術書扱いで別にまとめてあるが、新潮文庫だから本棚の奥深くに埋もれていた。偶然見つけて読んでみることに。 面白かった。解説の三浦雅士が、まぎれもない名著だといい、若い…

早朝のファミレスで作戦を練る

大村さんとの対話に端を発して、井手先生への宣言、どうあげ女史への相談を通じて、僕の研究願望はしっかり頭をもたげてきた。どんな形で実を結ぶのか、結ばないのかはわからないが、テーマ的にも年齢的にも今回のチャンスを逃したら、今後の人生で研究にア…

『数に強くなる』 畑村洋太郎 2007

僕はどう考えても文系人間のくくりに入ってしまうが、数学や科学に対するあこがれはある。科学技術が光り輝いていた60年代に幼少期を過ごした人間の共通感覚だろう。だから、数式を使わずに「考え方」で数学を説明する画期的な本が面白かった畑村洋太郎の…

高度成長時代の「原風景」

子どもの頃、初めて見た景色(原風景)は以前からずっとあったものだと思い込んでしまう。だから子供心に、本物の日本国総理大臣は佐藤栄作総理であり、本物の米大統領はニクソン大統領、プロ野球の優勝チームはいつまでも巨人軍であるという思い込みがあっ…

凋落する日本

今さらながら、タイトルの件について。 僕が小学校時代の子供向けの自動車の本に、日本の自動車生産台数が世界7位であると書かれていたのを覚えている。その後高度成長期からオイルショック以降の安定成長を経て、日本の自動車生産台数が世界一位となり、経…

押し活とユートピア

現代美術家の外田さんと、新しく始める読書会の件で、小倉駅のコメダ珈琲で話をする。話題は多岐にわたったけれど、外田さんの娘さんの話が面白かった。 娘さんもまた美術家だけれども、ある時からアイドルの「押し活」に注力し始めたらしい。今は『遠野物語…

『流浪の月』読書会報告

地元の少人グループでの初の読書会の試みが終了した。もともとビブリオバトルを主催する団体のメンバーであり、仕事以外にも市民活動等でグループワークに長けた人たちだ。自分の考えをつくったり、それを簡潔にまとめて人前で話す経験を持っている。新参者…

『流浪の月』と「イエスの方舟」

読書会での事前のお題を考えていて、今までの気になった犯罪報道について話してもらおうと思いついた。直接小説とかかわらない(しかし小説を読む上で役立つ)お題は、息抜きにもなるし、参加者の視野を広げてくれる。 お題には、自分も答えないといけない。…

『流浪の月』 読書会質問項目作成

前回の記事で毒を吐き出してすっきりしたので、公平中立の立場から、議論が盛り上がるための質問項目をつくってみたい。 まずは、好きな文章や表現をえらんでもらうところから。 つぎに、この小説の特徴は、キャラ設定にあるような気がするので、選んだキャ…

記録の細部/記憶の深部

今月の吉田さんとの勉強会のために、例によって、僕のブログからいくつかの記事を組み合わせてレジュメをつくる。それが、単なる記事の寄せ集めになる場合もあれば、文章が有機的に結合して新たなテーマを際立たせることもある。手前味噌でいえば、今回は後…

自分の思考のクセを知る

僕は、ふだんの生活の中で、なんともバランスを欠いたこだわりにとらわれることがある。子どもの生活習慣や家の管理などのことで、突然あるポイントが心配になり、性急にそのことの改善を言いつのったりする。 そのポイントはまったくの思い違いでもないし、…

2023年新春に2023本目の記事

今回が、2023本目の記事。ちょうど西暦の年数と同じ数になった。感慨深い。 1000本目の記事を書いた時も、ようやくたどり着いたという達成感があったが、それ以来だ。記事の一本を一年と見立てれば、紀元以来の人類の歴史のボリュームを疑似体験できるような…

漱石のナショナリズム

漱石の言葉は、問題の核心にまっすぐに届く。 「国家的道徳というものは個人的道徳と比べると、ずっと段の低いもののように見えることです。元来国と国とは辞令はいくらやかましくっても、徳義心はそんなにありゃしません。詐欺をやる、誤魔化しをやる、ペテ…

『漱石文明論集』 三好行雄編 1986

岩波文庫の一冊を、購入後20年して読んだ。『吾輩は猫である』からの流れなのだが、漱石の評論をじっくり読んだのは初めてだ。読んでよかったと思う。自分の年齢と読書量を考えると、何を読むべきか優先順位をつけることの大切さをあらためて感じる。 漱石は…

自分史という場所

今日は、吉田さんとの勉強会である「宮司の会」。前回僕が苦し紛れに取り上げた「ガチャガチャ」論が、吉田さんの琴線にはひっかかってくれたようで、「自販機」と「駄菓子屋」についてのレジュメをもらった。 吉田さんは映像の専門家であり、自分なりの映画…

『当事者主権』 中西正司 上野千鶴子 2003

「全世界の当事者よ、連帯せよ」の言葉で締めくくられる、とても熱い本。障害者運動の中西と女性運動の上野という、経歴の異なった両者の思いと知恵が叩き込まれた共著だというのも、その熱さの由来だろう。 ただ、こうした本だからこそ、僕は自分の「当事者…

ようやくブログが追いついた

昨年の秋から遅れ勝ちだったブログが、ようやく実際の日付に追いつくことができた。この間は、資格試験の勉強や、定年前の雑事や動揺もあって、半月以上遅れることもあった。 何も連続更新にこだわる必要はない。僕の自己満足以外気にしている人などいないの…

何よりもダメな男

学生の頃、評論家の菅孝行が好きで、彼の雑文集『何よりもダメな日本』を愛読していた。表題は、エンツェンスベルガーの『何よりもダメなドイツ』からとったものだったと思う。 管は、まっとうでまじめすぎるような左翼の批評家で、そのためかバブル以降の論…

入口と出口

定年とはいっても、まだ仕事を辞めるわけにはいかないので、転職するだけである。ただ、やはり定年という響きには、勤め人には強いインパクトがあって、社会人としての終わりを考えてしまう。何事にも出口があれば入口があるから、それとの連想で社会人にな…

ベンヤミン読書会顛末

今月の吉田さんとの勉強会では、「ベンヤミン読書会顛末」と題して、読書会メンバーへの案内文(「なりきりベンヤミンの会」)を頭に、報告用の原稿代わりに書いたブログ記事三本(「ガレキの拾い方」「希望をもつ方法」「近所を歩くということ」)と読書会…

情事をどう浄化するか

ミラン・クンデラの『存在の耐えられない軽さ』を読んで、小説としての面白さというよりも、もっと別のことを考えさせられた。 人間の男女のこと、性愛をめぐることに関しては、つつきだせばいろんなパターンなり、可能性なりがあるだろううが、どれも客観的…

考えることと振舞うこと

読書会での報告が無事終わった。9月の終わりにこの話をもらった時には、ちょうど人生の区切りの時期だから、読書や思索の面での総まとめとなるようなことができたらと思っていたが、準備もはかどらず、とてもそんなふうにはならなかった。それでも、会のメン…

ナビと計画変更

ずっと使わなかったカーナビを、遠出の時に何回か使ってみた。なるほど便利だ。いまさらだが。機械の判断に従うのが嫌な気がしていたのだが、ナビの指示に従わずに走ると、ナビは冷静に経路を再計算、再判断して、その時点での最も「合理的な」経路を示して…

「機関車を見ながら」-芥川小論

『侏儒の言葉』が残念だったので、全集を引っ張り出して、晩年の短文にいくつか目を通してみた。経験上、芥川に関しては、こんな場合に満足のいく発見は期待できない。しかし、今回は、はっと目をひく文章を見つけた。 昭和2年の自死のあと発表された遺稿の…

『侏儒の言葉』 芥川龍之介 1927

子どもの頃から芥川が好きだった。学生時代は市立図書館で岩波の大判の全集を借りてきて読んだし、社会人になってから、版が小さくなった新しい全集を手に入れた。とはいえ、持っているだけで、きちんと読んだわけではない。 この岩波文庫の『侏儒の言葉』の…

財布をもって追いかける

外国人の動画に、日本で財布を落とすと、それを拾った日本人は必ず落とし主に返すということを検証するものがあった。実際に、動画の主が人込みでわざと財布を落とすと、それを目撃した日本人は、素早く拾って落とし主を追いかける。まさに百発百中だ。 まあ…

『人新世の「資本論」』 斎藤幸平 2020

コロナ感染症で宿泊療養施設のホテルに隔離された時に持ち込んだ本の一冊。いわずとしれたベストセラー。今時マルクスの研究者の本が売れ続けているというのが不思議だったが、ようやく手に取って一気に読了し、その意味が納得できた。 とても良い本だ。読書…

『新世紀のコミュニズムへ』 大澤真幸 2021

読書会の課題図書。課題図書の指定のある前に、僕がすでにこの本を買って積読していたのは、やはりまだ大澤真幸という思想家に期待と幻想があったからだろう。 ところが、読み出してみると、これはとんでもない本だった。冒頭、コロナ禍の解決のためには世界…

思想家を読む

学生時代に、哲学・思想書をかじってから、社会人として生活していく中で、細く、長く、乏しく、その読書を続けてきた。読書量自体はたいしたことはないから、むしろ時々立ちどまって、哲学・思想書が扱うような問題にあれこれ思いをめぐらしてきた、という…

ブログが追いつく

このブログを書き始めたのは、2017年の1月からだが、記事を毎日更新するようにしたのは、その年の10月からである。だから、今月でちょうど丸4年、毎日記事を書いてきたことになる。 当初はブログの仕組みや機能もよくわかっていなかったので、とにかく生真面…