大井川通信

大井川あたりの事ども

『数に強くなる』 畑村洋太郎 2007

僕はどう考えても文系人間のくくりに入ってしまうが、数学や科学に対するあこがれはある。科学技術が光り輝いていた60年代に幼少期を過ごした人間の共通感覚だろう。だから、数式を使わずに「考え方」で数学を説明する画期的な本が面白かった畑村洋太郎の別の本を見つけて、早速手にいれてみた。岩波新書の一冊で、前著が話題になった後に企画されたもののようだ。

2004年の前著は、微分積分三角関数など高校レベルの数学のアイデアの根本イメージを教えてくれるものだったが、今回はもっと身近な数そのものを徹底的に利用するためのマニュアルである。よくビジネスマンや経営者などで、あの人は数字に強いなどと言うだろう。そういう実践的な数量感覚についての覚書なので、ありがちなところもあり正直前著ほど面白くはなかった。

ただ、図解や絵図が豊富でそれはユニークだ。とくに、「わかる」というプロセスの図解と説明は、すぐれたものに思えた。

① 観察する動的な「現象」から、とりあえず静的な「事実」を抽出する。

② その事実から「構成要素」を摘出し(仮定1)、その構成要素を「構造化」(仮定2)して事実を再構成してみる。

③ これに外から何らかの「刺激」を加えて「試動」させてみる。

④ 結果的に動的な「現象」が生じる

①と④の現象が一致していれば、理解した(わかった)ということになる。一致していないのなら、②の二つの仮定のどちらかか両方が違っているということになる。

「試動」以降の検証の手続きの具体性は、著者の本職が技術者だからこそだろう。

また、「ニッパチ(2-8)の法則」の紹介にもあらためて考えさせられた。「会社の利益の8割は2割の社員が稼いでいる」という説明はよく聞くが、著者はより普遍的に「最初の2割の努力で、成果の8割は達成される」という説明を採用する。

僕はとにかく飽きっぽい。いろいろなものに手を出すけれども、すぐに関心を別のものに向けてしまう。だから冒頭の部分しか読んでいないような本がたくさん積読されることにもなる。これを自分の大きな弱点だと思っていた。

しかしニッパチの法則からすれば、もしかしたら僕は最初の2割の努力でその分野の美味しいところを味わってしまい、味が薄くなったところで、また新鮮で味の濃い分野に本能的に関心を移していたのかもしれない。

同じ領域で最後まで頑張って10割の成果をあげるよりも、5つの領域のそれぞれ最初の2割だけをかじった方が、同じ時間で8割×5領域=40割で4倍の成果をあげることになるのだ。この法則を鵜吞みにすればの話だが。

とにかく自分の行動パターンを今から大きく変えることはできない。残り少なくなってきた時間とエネルギーを何にどう振り分けるかについては、いっそう自覚的になる必要があるだろう。

 

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