大井川通信

大井川あたりの事ども

2017-10-01から1ヶ月間の記事一覧

ジョウビタキがやってきた

玄関を出ると、隣家の屋根の上から、「ヒッ、ヒッ、ヒッ」という声が聞こえてくる。鳥の聞きなしは微妙なものが多いが、こればかりは、「ヒッ、ヒッ、ヒッ」としか聞き取れない。その合間に、カタカタカタと小刻みにモノをたたくような音も聞こえる。 ジョウ…

『中動態の世界』(國分功一郎 2017)を読む(その1)

昔からかかわっている読書会の課題図書として読む。よく売れていて、書評等でも評価は高いようだ。しかし、苦労して読んでみると、納得できなかったり、疑問を感じたりするところが多い本だった。たくさん考えさせられた、という意味では刺激的で得難い読書…

なぜ同じ話を何度もするのか?(記憶論その1)

ほんの10年くらい前まで、年配の人が平気で同じ話を何度もするのが不思議だった。この話、前に聞いたばかりなのに・・・。非難の気持ちというより、目の前にあるコップがなぜ見えないのだろう、と思うのと同じくらい素朴な疑問だった。いつのまにか、自分…

原っぱのヒキガエル

実家の庭を、暗くなってから歩いていると、足もとを何か大きな生き物がはねるように横切った。すぐにヒキガエルだと気づいたが、ずいぶん久しぶりの出会いだった。 実家の横に大きな原っぱがあったときには、土地の主のようなヒキガエルがいて、間違えて踏み…

老いの過程

僕は、祖父母の記憶がほとんどない。母の田舎の座敷でふとんに寝ている母方の祖父の姿を、ぼんやり思い出すだけだ。あとの三人は、僕が生まれる前に亡くなっている。そのせいかわからないが、お年寄りのことを分かっていない、と自覚することがある。 80代…

樋井川村から大井村へ

近所の大規模住宅団地で、今、ニュータウンのリノベーションの動きが起きている。先月から毎回ゲストを招いて「郊外暮らしの再成塾」が開催されていて、今月が株式会社樋井川村の村長を名乗る吉浦隆紀さんだった。所有と市場をベースに、おおきなうねりの発…

「秋の祈」高村光太郎 1914

秋は喨喨(りょうりょう)と空に鳴り/空は水色、鳥が飛び/魂いななき/清浄の水こころに流れ/こころ眼をあけ/童子となる 多端紛雑の過去は眼の前に横はり/血脈をわれに送る/秋の日を浴びてわれは静かにありとある此(これ)を見る/地中の営みをみづか…

駄洒落を言ったの誰じゃ(その3)

ある日、近所のため池をのぞいていて、とんでもない発見をした。ため池は、養魚池としても使われていて、色とりどりの鯉が、気持ちよさそうに泳いでいる。しかし、これはとんでもなく矛盾した事態ではないか。 池の鯉・・・イケとコイ・・・行けと来い!? …

「日本の家」展で、家について考える

東京国立近代美術館で、「日本の家」展を見た。海外での展覧会の帰国展ということで、13のテーマ別に事例を取り上げているのは、わかりやすかった。「プロトタイプと大量生産」「閉鎖から解放へ」「家族を批評する」「さまざまな軽さ」「すきまの再構築」…

詩集『声と冒険』(岡庭昇 1965)から

午後の乳母車の歌 岡庭昇 乳母車が走る/やさしいそぶりで増殖しつづける霧を裂き/白いすじを作りながら/まっすぐに走ってゆく/九段坂上をぼくはゆっくり歩く/乳母車が千代田城濠わりの横を走ってゆく/熱っぽい眼、ひらかれようとするくちびる、破れた…

家庭の恐怖

妻は、実の兄との関係があまりよくなかった。それで10年ばかり会っていなかったのだが、先日、突然の訃報があった。通夜と葬儀に出て、いざ出棺の時に、手を合わせて「では、さようなら。来世は私の前に現れないでください」とお祈りして、お別れしたそうだ…

住宅街の恐怖

今の街に引っ越して、まだ間もない時だったと思う。住宅の数も少なくて、今より周辺もだいぶさみしかった。夜中、子どもを残して夫婦で車を出した。翌日の用事にそなえて、買い物とガソリンの給油に行ったと記憶している。当時3歳の長男は寝付いていたし、…

旅するアサギマダラ

この秋はじめてアサギマダラを見た。松林を抜けるあたりの道の先に、一匹の大型の蝶が見えたが、フワフワ浮かぶような飛び方がアゲハとは違う。近づくと、白をベースに黒い縁取りと朱色が美しいアサギマダラで、ゆっくり林の上に消えていくのを、うっとりと…

如来田の道元

仕事の関係で、山間の禅寺を訪ねる。如来の田という美しい名前の土地で、700年以上の歴史をもつお寺だ。古びた石仏が並ぶ境内の隅には、コンクリート製の代替梵鐘が置かれている。戦時中、武器生産のため釣鐘が供出されたあと、木造の鐘楼がぐらつかないよう…

ハラビロカマキリの闘い(その3)

ハラビロカミキリの洗脳状態での不名誉な姿を記事にしてしまったので、彼の本領である真剣勝負を記録しておくことにしよう。 四、五年まえのことだ。自宅の玄関を入ろうとすると、地面から、ボリボリ、ボリボリ、という音が聞こえて来た。あわてて下を見ると…

柿喰う客フェスティバル2017 「無差別」

劇団「柿喰う客」の旧作上演のフェスティバルで、「無差別」の再演を観る。面白かった。主宰の中屋敷法仁の才能と劇団の力量に、文句なく圧倒された。 やや前傾した円形の小さな舞台の上で演じ、踊るのは、黒いシンプルなコスチュームをまとった7人の女優だ…

また身の下相談にお答えします 上野千鶴子 2017

上野さんが新しいフェミニズム論をひっさげて活躍していたころ、僕も若かったこともあって、だいぶ影響を受けた。冷戦終結の頃と思うが、社会主義がテーマの大きなシンポジウムで、壇上にいた大御所のいいだももが、フロアの上野に向けて「理論的挑戦をした…

「運慶」展で高僧に出会う

話題になってるから、というくらいの理由で、上野の運慶展に立ち寄る。東京国立博物館は、平日なのにかなりの人の出だった。素人目にも、運慶の手がけた彫像は、力強さといい繊細さといい、抜きん出た印象を受ける。その中で、遠目にも、たたずまいが全く異…

ハラビロカマキリの闘い(その2)

翌日浜辺を歩くと、また別の場所で、海水に濡れた緑色のハラビロカマキリを見つけた。障害物のないきれいな遠浅の砂浜で、カマキリは思い切り自由にふるまえるし、こちら側も変な先入観なく観察することができた。 カマキリは、まず、海に向かって真っすぐに…

金光教の教会にて

先日金光教の本部に立ち寄った時、うらぶれた門前町の様子に好感を持った。酒屋さんで神酒の小瓶を買ったのは、友人との話のタネにでもなればいいと思ったからだ。ところがふと思い立って、地元の教会を訪ねてみることにした。教会は自宅から一キロばかりの…

ハラビロカマキリの闘い

砂浜を歩いていると、波打ち際を歩くカマキリが目に止まった。緑色が鮮やかで、腹が平べったいハラビロカマキリだ。なぎとはいえ外海だから、カマキリの左側からは、大きな波音が響き、時には波が届いて、カマキリの足もとをさらったりする。明らかに海の側…

だじゃれを言ったの、じゃ、だ〜れ?

そのダジャレ名人は、当時東京郊外の団地にある塾で教室長をしていた。商店街の古い木造の二階屋を教室にしたもので、隣のパン屋のおやじが、塾生の自転車が店の前をふさいでいると怒鳴り込んでくるような環境だった。長身で洋楽好きのダジャレ名人は、学生…

子どもの境界線

一年くらい前のことだ。僕が住む住宅街の真ん中には、遊具や砂場のある公園がある。自治会の仕事で待ち合わせていると、木製の滑り台の周りで、子どもたちが遊びだした。身体の大きさが違うから、同級生というより兄弟や近所の友達のグループなのだろう。も…

だじゃれを言ったの、だれじゃ?

今では人に自慢できる才能などまるでないけれども、かつてはダジャレを作ることには自信があった。ダジャレ自体は、昔からそれほど評価の高いものではなかったろうが、ある時期から親父ギャグと言われてさげすまれるようになり、今ではうっかり若い人に言お…

サイクリングロードの雉

サイクリングロードの片側の水路の上を、時々、グリーンの背を輝かせてまっすぐにカワセミが飛ぶ。年配の人が、カメラでそれをねらっている。道の反対側は深い森なのだが、ふと見ると、足元の草の上に大きな鳥がへたり込んでいるので、ギョッとした。 まだら…

博多 東長寺にて

義母の墓参りで、博多にある東長寺にお参りする。空海が帰朝後に開いた最初の寺で、大学受験で「晴れむ(ハ・レ・ム)心で真言開宗」と覚えこんだ806年が創建の年だという。驚くような由緒だが、博多駅近くのビル街にあって、歴史を思い返すには不利な環境か…

倉敷と浦辺鎮太郎

倉敷は本当に面白い街だった。いわゆる美観地区という白壁の蔵と町家が連なる地域だけでなく、その周辺の街並みとの関係がとくに興味深い。 まずは美観地区の伝統建築の圧倒的な充実ぶりである。たいていこの手の街は、街道に沿って建物が一列あるだけだった…

二人の教師

最近、続けて二人の先生と話をする機会を持った。 一人は、もう40代のベテランだが、とても若々しい。もともと同和教育で鍛えられた先生だが、研究機関での1年間の研修のあとは、その成果を地元に還元しようと自分で勉強会を作って、若手に学びの機会を提…

神社の恐怖

夕暮れ間近の神社の鳥居の前に、十人ほどの人だかりがある。地元のお祭りか何かなのだろう、と脇によけて鳥居をくぐると、石段がはるか上に続くのが見えた。駅や商店街からも近い街道沿いだが、この神社の山だけは開発を免れているようだ。拝殿にたどり着く…

備中国分寺 五重塔

バイパスを高速で走っていると、進行方向の田園風景の中に、五重の塔の小さなシルエットを見つけて、はっとした。その姿は、近づくにつれ魅力を増し、観る者の胸を高鳴らせる。 備中国分寺の五重の塔は、広々した田園の奥の高台にあって、周囲の木々から五層…