外国文学
岩波文庫で、ゴーゴリ(1809-1851)のペテルブルクを舞台にした小説集(いわゆるペテルブルクもの)を読んだ。1983年の新刊で、1988年に発行されたものを持っている。紙質が良くないためか、ずいぶんと古く使い込んだ本に見えるが、実際にはきちんと読んで…
1968年に新潮文庫で改訳発行された短編集を、近年「村上柴田翻訳堂」(全10冊)の一冊として改題して復刊させたもの。トマス・ハーディ(1840-1928)の小説で今新刊書店で手に入るものはこれだけのようだ。 サマセット・モーム(1874-1965)の『お菓子とビ…
モーム(1874-1965)の小説は面白い。僕に小説を読む楽しさを与えてくれる数少ない作家のひとりだ。5年ばかり前に、読書会の課題図書をきっかけにまとめて読んだ時期があったのだが、その後で思いついて買っておいた文庫本の頁をめくってみた。 とにかく登…
副題が「J・オースティンの世界」の岩波新書。オースティンの人物と作品の解説、その時代背景の説明、それが長く愛読され特に近年において人気が再燃している事情などを解説する。オースティンの入門書といっていい。 僕はまだ二作品しか読んでいないが、そ…
『自負と偏見』が面白かったので、オースティンの6つの長編小説を読んでみようと思い、一番薄くて読みやすそうな一冊を手に取った。22、3歳の時書かれて、27歳の頃推敲後完成されたものの出版の機会に恵まれず、ようやく没後に本になったそうだ。 残念なが…
読書会の課題図書。これは僕が選んだもの。何年か前、職場の若いイギリス人の女性がオースティンのファンだと言っていたので、薄い英文の要約版で読んだことがある。面白かったので、原作を読みたかったのだ。実際にとても面白かった。 作中の名言を選ぶとい…
思想系読書会の課題図書。メンバーの中でも強面のアメリカ文学者高野さんの選書だ。高野さんは課題を二つあげている。一つは、この小説のもつ「現代的な意義」を示せ、というもの。もう一つは日本の文学(芸術)作品で似ている作品をあげよ、というもの。 正…
出版後数年でアメリカで1500万部の史上最大のベストセラーとなり、日本でも1974年に翻訳されて話題になった作品。世界中でヒットしたというものの、日本での当時の販売部数が120万部というから、アメリカほどには受けなかったのだろう。翻訳者の五木寛之があ…
『シッダールタ』を読書会で読む参考資料として、手に取った。文庫で250頁ほどだが、二日ほどで一気に読み切ってしまった。それほどまでに(序盤は)面白く、(中盤以降は)摩訶不思議で、先を読まないではいられないような作品だった。 10歳のシンクレール…
100年という時間幅は、一人の人間が経験できる時間の単位としては最大のものだろう。まして、若年のうちは、とてつもなく大きな時間を示すものに思えていた。10年ひと昔、というがそのひと昔を10個積み重ねてようやく到達できる、はるか向こうの世界。 漱石…
一昨年、読書会でヴァージニア・ウルフ(1882-1941)の『オーランドー』を読んで面白いと思った。その時買って積読になっていたこの文庫本を今頃になって手に取ったのは、知人の英文学者高野さんが今ウルフをまとめて読んでいると聞いたからだ。 読み始める…
ひょんなきっかけで、長年の念願だったウイリアム・フォークナー(1897-1962)の代表作を読むことができた。あやうく本屋で買いかけたが、運よく蔵書の中で文庫を見つけることができた。2000年に「新潮文庫20世紀の100冊」という企画の中の、1932年刊行の一…
読書会の課題図書。ミラン・クンデラ(1929-)は二作目だが、前作よりもかなり読みにくい。自分は本当に小説には向いていない人間だなと実感する。けれど読み終わると、読後感は決して悪いものではなかった。 作者とおぼしき「語り手」が終始前面に出てきて…
読書会の課題図書。人間には仲間と土地が必要だ、という話。 【演劇】 レニーとジョージの(おそらくは不幸な)行く末が気になって途中までは、読むのがつらかったが、ある部分から急に読みやすくなった。カーリーの妻の死の場面のあたりで、これが演劇の舞…
読書会の課題図書。 主人公のオーランドは、16世紀から20世紀までの360年間を生き抜いたにもかかわらず、年齢は36歳。17世紀には、性別が男から女に変わっている。「伝記作家」という語り手の存在が絶えず顔をのぞかせたり、性別の転換がなんの説明もなく告…
読書会の課題図書で読む。 小学生の頃、子ども用の少年少女名作文学シリーズで、とても面白く読んだ小説だ。50年ぶりに読んで、ちょっと期待外れの面もあった。当時の本の子ども向けの要約や書き直しが上手だったのだろうが、もともと笑いのセンスが子どもに…
この際だからと、現在手に入るもう一冊のビアスの短編集、光文社古典新訳文庫シリーズの一冊を取り寄せて読んでみる。全14編のうち岩波文庫との重複は、4編のみだ。翻訳はこちらの方がいいような気がする。ただし、巻末の解説はダラダラと長いばかりで、焦点…
ビアスといえば、短編の名手サキ(1870-1916)の名前を連想したので、この機会にサキの短編も読んでみることにした。文庫本は5年ばかり前に手に入れていた。 21編の収録作品の内、心に引っかかったのは三分の一弱。おそらく文化や時代背景の違いのせいでピ…
十代の終わりに、少しだけ文学青年だった時期があって、その頃好きだった作家の一人が、アンブローズ・ビアス(1842-1914)だった。短期間だったから、多くの作家に触れたわけではない。小栗虫太郎も好きだったから、少し異端の匂いがある作家が気になって…
ゴールデンウイークだけど、新型コロナ禍で外出もままならないので、書棚から未読の小説を取り出して読む。村上春樹訳。有名な映画も見たことはない。 主人公は、まだ若い「僕」。それなりに楽しかったり不本意だったりする生活の中で、何人かの人たちと知り…
この二年ばかり小説を読む読書会に参加するようになって、僕も苦手だった小説を定期的に読むようになった。 何より驚いたのは、僕らのようなごく普通の生活者同士が言葉を交わす素材として、評論より、小説のほうがずっとふさわしいということだった。一見、…
この有名な小説を、読書会のために初めて読む。予想外に面白かった。 まず、文章がとても正確で、気持ちがいい。たとえば、シリルとの密会のあと、家にもどったセシルが、アンヌの前で気まずくタバコを吸おうとする瞬間の仕草が、コマ撮り写真のように描かれ…
カポーティ(1924-1984)が19歳の時の短編。読書会の課題図書で読んだ新潮文庫の短編集『夜の樹』の中の一篇。 やはりミリアムが何者かということが話題になったけれども、ミセス・ミラーの別人格や 分身として受け取る意見が主流だった。孤独で地味に生き…
読書会の課題で、トーマス・マン(1875-1955)の『トニオ・クレエゲル』(1903)と『ヴェニスに死す』(1913)とを読む。どちらも理屈っぽく、ぎくしゃくとした構成の小説だが、前者の方が面白かった。 トニオ・クレエゲルは、芸術と生活との間で、危うい綱…
井亀あおいさんが最期の時に手にしていた小説。2014年に出版の最新の翻訳で読む。たまたま買っていて手元にあったのだ。 原題は小説の舞台を示す『別荘で』というあっさりしたもので、こちらの方がずっとよい。いかにもかつての日本人好みの邦題だが、モーム…
読書会の課題図書で、光文社古典新訳文庫の『書記バートルビー/漂流船』を読む。 日本で言えば黒船来航の頃の作品だし、文豪の書いたものだし、正直あまり期待していなかった。しかし、二作品とも、予想をこえて読み物として十分に面白かった。 設定もシンプ…
読書会の課題本。2017年刊行の河出文庫の短編集。著者カナファーニー(1936ー1972)はパレスチナに生まれ、難民となり、パレスチナ解放運動に参加するかたわら小説を執筆。36歳で暗殺されるが、遺された作品は、現代アラビア語文学の傑作として評価されてい…
ちょうど一年前から、小説を読む読書会に参加するようになった。月に一冊とは言え、小説を手に取る機会をえたのは大きい。ついつい批評家気どりで、理屈をあれこれつけることに夢中になってしまうけれども、純粋に楽しんで読める作家にも出会うことができた…
読書会の課題図書。ブッツァーティ(1906-1972)はイタリア人作家。カフカの再来とも言われるらしいが、ある辺境の砦をめぐる寓話的な作風で、とても面白かった。 主人公のドローゴは、士官学校を出たあと、辺境の砦に将校として配属になる。砦では、軍隊式…
読書会の課題図書なので、さっと読んでみる。 個性的な人物同士が、せまい温泉町の五日間に、饒舌に自己を語りながら運命的にからみあう、という小説。いかにも作り物めいた虚構の世界にぐいぐい引き込まれるのは、登場人物がそれぞれ、人間の本質の「典型」…