大井川通信

大井川あたりの事ども

外国文学

『自負と偏見のイギリス文化』 新井潤美 2008

副題が「J・オースティンの世界」の岩波新書。オースティンの人物と作品の解説、その時代背景の説明、それが長く愛読され特に近年において人気が再燃している事情などを解説する。オースティンの入門書といっていい。 僕はまだ二作品しか読んでいないが、そ…

『ノーサンガー・アビー』 ジェイン・オースティン 1817

『自負と偏見』が面白かったので、オースティンの6つの長編小説を読んでみようと思い、一番薄くて読みやすそうな一冊を手に取った。22、3歳の時書かれて、27歳の頃推敲後完成されたものの出版の機会に恵まれず、ようやく没後に本になったそうだ。 残念なが…

『自負と偏見』 ジェイン・オースティン 1813

読書会の課題図書。これは僕が選んだもの。何年か前、職場の若いイギリス人の女性がオースティンのファンだと言っていたので、薄い英文の要約版で読んだことがある。面白かったので、原作を読みたかったのだ。実際にとても面白かった。 作中の名言を選ぶとい…

『野生の呼び声』 ジャック・ロンドン 1903

思想系読書会の課題図書。メンバーの中でも強面のアメリカ文学者高野さんの選書だ。高野さんは課題を二つあげている。一つは、この小説のもつ「現代的な意義」を示せ、というもの。もう一つは日本の文学(芸術)作品で似ている作品をあげよ、というもの。 正…

『かもめのジョナサン』 リチャード・バック 1970

出版後数年でアメリカで1500万部の史上最大のベストセラーとなり、日本でも1974年に翻訳されて話題になった作品。世界中でヒットしたというものの、日本での当時の販売部数が120万部というから、アメリカほどには受けなかったのだろう。翻訳者の五木寛之があ…

『デミアン』 ヘルマン・ヘッセ 1919

『シッダールタ』を読書会で読む参考資料として、手に取った。文庫で250頁ほどだが、二日ほどで一気に読み切ってしまった。それほどまでに(序盤は)面白く、(中盤以降は)摩訶不思議で、先を読まないではいられないような作品だった。 10歳のシンクレール…

『ダロウェイ夫人』 ヴァージニア・ウルフ 1925

一昨年、読書会でヴァージニア・ウルフ(1882-1941)の『オーランドー』を読んで面白いと思った。その時買って積読になっていたこの文庫本を今頃になって手に取ったのは、知人の英文学者高野さんが今ウルフをまとめて読んでいると聞いたからだ。 読み始める…

フォークナー『八月の光』を読む

ひょんなきっかけで、長年の念願だったウイリアム・フォークナー(1897-1962)の代表作を読むことができた。あやうく本屋で買いかけたが、運よく蔵書の中で文庫を見つけることができた。2000年に「新潮文庫20世紀の100冊」という企画の中の、1932年刊行の一…

『存在の耐えられない軽さ』 ミラン・クンデラ 1984

読書会の課題図書。ミラン・クンデラ(1929-)は二作目だが、前作よりもかなり読みにくい。自分は本当に小説には向いていない人間だなと実感する。けれど読み終わると、読後感は決して悪いものではなかった。 作者とおぼしき「語り手」が終始前面に出てきて…

『ハツカネズミと人間』 スタインベック 1937

読書会の課題図書。人間には仲間と土地が必要だ、という話。 【演劇】 レニーとジョージの(おそらくは不幸な)行く末が気になって途中までは、読むのがつらかったが、ある部分から急に読みやすくなった。カーリーの妻の死の場面のあたりで、これが演劇の舞…

『オーランドー』 ヴァージニア・ウルフ 1928

読書会の課題図書。 主人公のオーランドは、16世紀から20世紀までの360年間を生き抜いたにもかかわらず、年齢は36歳。17世紀には、性別が男から女に変わっている。「伝記作家」という語り手の存在が絶えず顔をのぞかせたり、性別の転換がなんの説明もなく告…

『ティファニーで朝食を』 トルーマン・カポーティ 1958

ゴールデンウイークだけど、新型コロナ禍で外出もままならないので、書棚から未読の小説を取り出して読む。村上春樹訳。有名な映画も見たことはない。 主人公は、まだ若い「僕」。それなりに楽しかったり不本意だったりする生活の中で、何人かの人たちと知り…

『ミリアム』 トルーマン・カポーティ 1943

カポーティ(1924-1984)が19歳の時の短編。読書会の課題図書で読んだ新潮文庫の短編集『夜の樹』の中の一篇。 やはりミリアムが何者かということが話題になったけれども、ミセス・ミラーの別人格や 分身として受け取る意見が主流だった。孤独で地味に生き…

『女ごころ』 サマセット・モーム 1941

井亀あおいさんが最期の時に手にしていた小説。2014年に出版の最新の翻訳で読む。たまたま買っていて手元にあったのだ。 原題は小説の舞台を示す『別荘で』というあっさりしたもので、こちらの方がずっとよい。いかにもかつての日本人好みの邦題だが、モーム…

『タタール人の砂漠』 ブッツァーティ 1940

読書会の課題図書。ブッツァーティ(1906-1972)はイタリア人作家。カフカの再来とも言われるらしいが、ある辺境の砦をめぐる寓話的な作風で、とても面白かった。 主人公のドローゴは、士官学校を出たあと、辺境の砦に将校として配属になる。砦では、軍隊式…

『別れのワルツ』 ミラン・クンデラ 1973

読書会の課題図書なので、さっと読んでみる。 個性的な人物同士が、せまい温泉町の五日間に、饒舌に自己を語りながら運命的にからみあう、という小説。いかにも作り物めいた虚構の世界にぐいぐい引き込まれるのは、登場人物がそれぞれ、人間の本質の「典型」…

ゴーゴリ『死せる魂』を読む(その2)

第1部は、完成されて1842年に出版されたものだ。一方、第2部は、1852年の死の直前にゴーゴリが自ら原稿を焼却してしまったため、残った草稿やノートから復元したもので、分量も1部の半分程度である。未完だし、欠落や粗略も目立つ。しかし、通読して2部…

ゴーゴリ『死せる魂』を読む

子どもの頃から、ニコライ・ゴーゴリ(1809-1852)が好きだった。なんで好きになったのか、もう覚えていない。隣のいとこの家にあった少年少女世界文学全集で『外套』を読んだためかもしれない。唯一の好きな外国文学の作家で、それでロシア文学の勉強をし…

『ジゴロとジゴレット』 モーム傑作選 新潮文庫(その2 )

◯『マウントドラーゴ卿』 登場人物は3人。精神分析医のオードリン医師と、診察室で向き合う外務大臣のマウントドラーゴ卿。そして患者の悪夢に登場する下院議員のグリフィス。 オードリン医師は、患者を治す特別な資質に恵まれているために名医とされるが、…

『ジゴロとジゴレット』モーム傑作選 新潮文庫

◎「征服されざる者」 昔、柄谷行人の講演で、坂口安吾論を聞いたことがある。無慈悲に突き放される物語にこそ文学の原型がある、という安吾のエッセイを中心に論じていた。この小説を読んで、そのときの話を思い出した。この短編の読後感は、僕には『月と六…

『月と六ペンス』 サマセット・モーム 1919

読書会で『月と六ペンス』を読んだ。こういう機会がないと、確実に生涯読むことのない作品だ。モーム(1874~1965)が想像より現代に近い作家であること、とても面白い短編を書いていること、など知ることもできた。若い世代が中心の読書会なので、彼らの本…