大井川通信

大井川あたりの事ども

『自負と偏見のイギリス文化』 新井潤美 2008

副題が「J・オースティンの世界」の岩波新書。オースティンの人物と作品の解説、その時代背景の説明、それが長く愛読され特に近年において人気が再燃している事情などを解説する。オースティンの入門書といっていい。

僕はまだ二作品しか読んでいないが、それぞれの作品の前提となっている社会制度や風俗習慣のありようの指摘から、ずいぶん疑問が解けたり理解が進んだ気がする。

ただ未見の長編のストーリーの紹介もあるので、ネタバレ防止からあんまり熱心に読むわけにもいかない。といってもオースティンの小説はあらすじを読んでもどこが面白いのかよくわからないし、まるで頭にも入らない。あれほど面白い『自負と偏見』ですら、この新書での内容の要約をみると驚くほどつまらないストーリーに思えてしまう。

今回の収穫は、古書店から取り寄せてすぐに、飛ばし読みをしながら短時間で一冊を読み切ったことだ。積読せずに、飛ばし読みすること。それでも十分に本の核心を味わうことはできる。

ところで、日本の文学者の中で例外的に漱石がオースティンを評価していた、というエピソードが面白かった。オーステインが地主階級の若い男女の結婚話しか書かなかったとすれば、漱石も知識階層の夫婦の三角関係の話しか書かなかったということになる。その限られた条件の中で、どれだけ人間を描けるかで勝負していた点で、両者には共通点があるのだろう。オースティンの方が、小説ははるかに上手であったにしろ。