大井川通信

大井川あたりの事ども

『近世俳句』 暉峻康隆 1954(学燈文庫) 

学燈文庫は、学燈社から出版されていた、国語の学習参考書のような文庫だった。地味な黄土色のカバーで、俳句や短歌、現代詩(僕はとくに『現代詩の基礎学習』のお世話になった)の丁寧な解説書の他、漱石や芥川などの近代文学徒然草などの古典の解説もあって、ラインナップも豊富だった。

この本の著者が国文学の泰斗暉峻康隆(てるおかやすたか・1908-2001)であるように、各巻の著者も錚々たる学者だったように思う。戦後すぐの出版だから、もしかしたら戦前からの学習参考書の雰囲気を伝えていたシリーズだったかもしれない。

大学一年の1980年11月4日に購入したというメモがあって、巻頭には自分の蔵書印を押している。成人になって父から贈られた蔵書印で、それほど多くの本に押した記憶はないから、大切に思っていた文庫だったのだろう。学燈文庫は、この本を含めて5冊が手元に残っている。

読書会で蕪村の句集をあつかったことがきっかけになって、今回、本当にひさしぶりに全体を読み直してみた。やはり面白い。著者の歴史観、文学観、人間観は多少古めかしくなってはいても、論述は大ナタを振るったように思い切りがよく説得力がある。鑑賞に使う表現は多彩で的確だ。

こうして江戸期の俳句を通覧してみると、やはり芭蕉の作品が抜きんでているように思えた。一茶の人となりに興味をもてたのが今回の収穫だ。400句近い掲句には、いろいろな作者も取り上げられていて楽しい。ビッグスリー以外では、蕉門の凡兆、そして丈草が僕には好ましい。凡兆は学生時代に大学図書館で作った全句集のコピーがあるが、丈草の句をもっと読みたくなった。以下すべて内藤丈草(1662-1704)。

 

さびしさの底ぬけて降るみぞれかな

水底の岩に落ちつく木の葉かな

鷹の目の枯野にすわる嵐かな

狼の声そろふなり雪の暮