大井川通信

大井川あたりの事ども

2020-01-01から1年間の記事一覧

柄谷行人の里山思考

読書会の忘年会以降、風邪気味となり調子が出ない。街にも出かけられず、年末らしいことを行えないまま、大晦日になってしまった。今日は近所の友人と里山に参拝登山に行くはずだったのだが、それもキャンセル。 仕方なく、家で年末の新聞に目を通していると…

タワシとキノコとオサビシヤマ

次男は、小さいころから髪の毛が剛毛だったから、長男が「タワシ」とあだ名をつけてからかっていた。ずいぶん長いこと、タワシ君とか呼んでいたと思う。 長男は猫好きで、昨年末に実家に戻ってからは、猫の九太郎をそれこそ猫可愛がりしている、九太郎先生と…

作文的思考が、それしかないというような、密かな僕の方法論です

★以下は、2006-7年の「玉乃井プロジェクト」の時期に安部さんと連絡用に頻繁にやり取りをしていたメールからの一部抜粋。この時期に、後に台本『玉乃井の秘密』のモチーフとなった「タマシイの井戸」という発想や、「作文的思考」というキーワードが出てい…

働くことについて(その3 暁の超特急)

【暁の超特急】 小学校の頃、年に一度、大きなグラウンドを借り切った会社の運動会があっていろいろな景品をもらうのが楽しみだった。また実業団の都市対抗野球に出場するときには、後楽園に観戦にでかけて派手な応援に目をみはった。カワイガッキなどという…

働くことについて(その2 あるカタログ)

【あるカタログ】 玉乃井プロジェクトの資料の展示コーナーには、玉乃井旅館のパンフレット等の営業の資料の他に、安部さんの家族のアルバムや記念の品物などが並べられている。その中に安部さんのお母さんが手元に置いていたような、日常の生活の書類を整理…

働くことについて(その1 六反田)

★2006年の玉乃井プロジェクトが、僕の作文にとって転機になったことを以前に書いた。プロジェクトの成果物である日本海海戦記念碑をめぐる文章は、以前に紹介している。プロジェクトと並行して開始していた9月の会で、もう一つ、自分にとって大切な文章を書…

見つめること、そして肯うこと(安部文範『菜園便り』の世界)

安部さんと知り合ったのは、『菜園便り』の通信が始まる少し前の頃だったと思う。ある会合で定期的に顔を合わせたことをきっかけとして、自宅にも時々お邪魔するようになった。 たいていは夜だったから、旧玉乃井旅館は、奥でお父さんの起居するわずかな気配…

クリスマスの朗報

7月に倒れて長期に療養していた安部さんの意識が半年ぶりに戻ったという連絡を受ける。車椅子に乗り、筆談ができるまでに回復しているという。特別にお見舞いを許された人のことをきちっと認識し、漢字も書けているという。 ただ、安部さんの伝えたい内容が…

読書会のあと深夜の街を爆走する

昔、20代の頃、東京郊外で塾教師をしていた時、夜遅く仕事が終わってから、講師仲間で湘南の海までドライブしたことがある。僕は行かなかったけれど、日本海を見ようと北陸まで出かけた仲間もいる。みんな若かった。 時と所が変わって、博多の街。読書会の仲…

『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』 ブレンディみかこ 2019

読書会の課題図書。面白かった。親子による多様性のためのレッスンともいうべき物語で、すみずみにまで神経の行き届いたテキストになっている。 登場人物の個性も、エピソードの描き方も、ストーリーの展開も、言葉のセンスもとても心地がいい。だから、よく…

里山の王者ノスリ

今回、津屋崎まで歩いて、うれしいことはたくさんあった。モチヤマの人から話が聞けたこと。山道がまだ通じていたこと。対馬見山に登れたこと。富士白玉神社を再訪できたこと。しかし、最大の喜びと驚きは、山道を下って、モチヤマの明るい棚田に戻ってきた…

やま首の恐怖

モチヤマの集落を歩いているとき、屋敷の庭でゴミ出しをしている人がいたので、あいさつをして、津屋崎に抜ける山道について聞いてみる。 それを手始めに、モチヤマのことをいろいろ聞くと快く教えてくれる。もちろん僕の方も、モチヤマの知り合いの名前や村…

家から歩いて登山する(対馬見山編)

大井川歩きの流儀だと、すべて自宅から歩いて行き、歩いて帰ってこないといけない。登山といっても電車や車で出かけて、近場から目当ての山だけに登るわけにはいかないのだ。近所の里山には何とか入り込んで、ヒラトモ様やクロスミ様を探りあてたが、山登り…

『夏子の冒険』 三島由紀夫 1951

読書会の課題図書。三島由紀夫(1925-1970)が自死したのが小学校3年生の時で切腹のニュースの衝撃が大きく(当時はまだ天皇を神と仰ぐ風潮が残っていたから)「まともな」作家とは思えずに今までなんとなく敬遠していた。今回初めて読んで、若いのに自制の…

曜日の当てを失う

何かちょっとした違和感がある。職場の壁に掲げられた週間の予定表を見ても、今日がどの曜日に当たるのか、すぐに思い当たらない。あわてて思いめぐらすと、知識としては、今日が何曜日でなければならないのか考えることはできる。しかし、その知識が、実感…

『流しの公務員の冒険』 山田朝夫 2016

東大法学部卒の自治省のキャリア官僚だった著者(1961-)が、大分県への出向をきっかけにして、地方での仕事の魅力に取りつかれて、小規模の町や市で課題解決の仕事を請け負う「流しの公務員」として活躍する姿を描くドキュメンタリー。 古書店で見つけたの…

こんな夢をみた(思想家の話を聞く)

広い座敷みたいなところで、ある思想家(内田樹みたいな顔をしていた)の講演を聞く。あんまりかしこまった場所でなく、雑談みたいな感じだった。清少納言とかつげ義春の名前が出て、はっとするような驚きに満ちた話だった。 僕がふだんから考えていたことに…

河川敷の思い出

広々とした河川敷を歩いていると、体内から河川敷の思い出がよみがえってくる。雑木林に入ると、わくわくして昆虫を探し回った気分が自然とわいてでてくるのと同じことだ。 子どもの頃、近くにある大きな川は多摩川だった。そもそも地元の街が多摩川の流れで…

里山の古墳を案内する

村チャコの常連ワタナベさんを連れて、大井の里山に登る。里山の頂上にある三角点に案内することを約束していたのだ。 倒れた竹が脇にやられて林道が歩きやすくなっているのは、山の作業で人が通ったためだろうか。そんな変化に敏感になる。斜面を登るときに…

「仕事・大井川・理論・文芸・ワタル」

「お財布・携帯・鍵」というのが、昔から外出の際の僕の個人的標語なのだが、うまく活用できているとはいいがたい。肝心の時に、この標語を唱えるのを忘れるのだ。だから、携帯やお財布を平気で忘れて、家や外出先に取りに戻ったりする。 最近は、これに「メ…

『「行政」を変える!』 村尾伸尚 2004

村尾伸尚(1955-)は、長く夜の某ニュース番組のキャスター(2006-2018)を務めていた官僚OBだ。彼がかつて大蔵省を辞めて三重県知事選に出馬した経緯や、役所勤めをしながら行っていた市民運動、そこでの行政を中心とした国の在り方の改革プランを、熱く…

どぶ板を踏む/沈下橋を渡る

今の職場の昼休みの散歩コースはバラエティに富んでいる。しばらく、裏の丘陵の中や周囲の自然の多い道を歩いていた。大きな岩をまつった神社や、古墳が森の中に出現したりして、変化あり起伏ありで面白い。人にも会わないから、大声で詩など暗唱して歩いて…

ツグミとシロハラと

大井川歩きの途中で、公園の日当たりのいいベンチに座ってみる。この公園では、子どもが小さかった頃、いっしょにサッカーボールをけって遊んだりしたことがあったのを思い出す。 夕日を浴びて、しばらく本を読むことができた。読書家のふりをしているが、実…

おなごし(女子衆)さんの思い出

村チャコで会ったワタナベさんを、大井炭鉱の坑口跡に案内することになる。石炭を運んだ道や炭鉱夫の納屋のことなど、大声で説明しながら里山に入っていくと、藪の手間で「くくり罠注意」という表示がある。イノシシのハコ罠なら知っているが、くくり罠を見…

モズのはやにえ(続報)

念願のモズのはやにえを見つけて、僕のことだから周囲の人に話しまくった。それは一方的な自慢に過ぎなかったけれども、それでも人に話すのは、双方向的なコミュニケーションのきっかけになる。いくつかの発見があった。 当然ながら、モズのはやにえを誰もが…

ハシビロガモの勤勉

冬を迎えて、近所のため池や川にいろいろなカモが姿を見せるようになると、今年こそカモ類も見分けられるようになりたいと、一時は考える。水辺で無防備に特徴のある姿をさらしている水鳥の種類がわからなくては、バードウォッチャーを名乗るのが恥ずかしい…

『歩いて読みとく地域デザイン』 山納洋 2019

著者は「まち観察企画」というワークショップを主宰している。参加者は特定のまちを90分間自由に歩いて、再集合したあとそれぞれの見聞をシェアするというものだ。案内しないまち歩きであり、自分で観察し発見するまち歩きであるといえる。 本書では、まち歩…

そうだ、黒島伝治を読もう!

ミヤマガラスの話題のたびに、『渦巻ける烏の群』(1928)の名前を出しているが、実際に読んだことがない。これでは知識を振りまわしているだけで説得力に欠ける。 それで手っ取り早く「青空文庫」で黒島伝治(1898-1943)をいくつか読んでみた。旧世代の人…

どうしたらミヤマガラスの凄さが人に伝わるだろうか

同僚と職場を出たら、裏山から街にかけて、ミヤマガラスの大群が飛び回っている。ねぐらに向うカラスかとも思ったが、群れの数と密度、何よりうねるように仲間と飛ぶ姿が際立っている。 まちがいない、ミヤマガラスだ。今シーズン彼らの姿を見るのは二度目で…

『感染症と民衆』 奥武則 2020

副題は、明治日本のコレラ体験。コロナ禍におけるタイムリーな企画ものの新書で、ジャーナリスト出身の学者が過去の研究成果を踏まえて書き下ろしているから、バランスよく読みやすい本になっている。僕には未知で、有益が情報が数多くあった。 コレラ以前に…