大井川通信

大井川あたりの事ども

やま首の恐怖

モチヤマの集落を歩いているとき、屋敷の庭でゴミ出しをしている人がいたので、あいさつをして、津屋崎に抜ける山道について聞いてみる。

それを手始めに、モチヤマのことをいろいろ聞くと快く教えてくれる。もちろん僕の方も、モチヤマの知り合いの名前や村の歴史の知識を交えて、自然と相手の信用を得られるように努めたわけだが。

やがて話は、村はずれにある「やま首」の話になった。そこは細長い森が切れて小道が横切る場所だ。そこを通りぬける風は早さを増すから、夏でもひんやりとした感触がある。やま首では「あまりいい話は聞かない」とその人もいう。

明治生まれの村人からの聞き取りの記録には、こんな話が書いてある。

 

「そこにいったら祟るというわけではないが、ヤマクビというところがあって、そこではカゼに遭うといわれていた。カゼに遭うと、熱病にかかったようになり、何人かそうなった人がいる。カゼというのはマ(魔)であると信じられている」

 

 僕はその人と別れてから、意を決してやま首を通り抜ける。首筋を冷たい風がなぜたけれども、気にしないでずんずん先に歩いて行った。今から本物の山の神様に会いにいくのだから、よこしまな霊にかかわっている暇はないのだ。