大井川通信

大井川あたりの事ども

家から歩いて登山する(対馬見山編)

大井川歩きの流儀だと、すべて自宅から歩いて行き、歩いて帰ってこないといけない。登山といっても電車や車で出かけて、近場から目当ての山だけに登るわけにはいかないのだ。近所の里山には何とか入り込んで、ヒラトモ様やクロスミ様を探りあてたが、山登りという感じはしない。

今年後半に入って、体重を落とし、大井川歩きを力強く復活させることができた。その中で、近場のもっとも有名な山であるコノミ山(標高271メートル)往復を何年振りかで実現し、新たにタレ山(標高126.1メートル)往復もやってみた。タレ山は近所の里山と高さは変わらないが、コノミ山と同じく遠めに目立つ「独立峰」の趣がある。

この二つの山の共通点は、自宅から直線で約3キロメートルの距離にあるということ。迂回した道のりは片道5キロくらいにはなるから、これが僕の体力の限界ということだろう。

久し振りに津屋崎方面の山越えをして、できれば山腹にある力丸ムツコさんゆかりの富士白玉神社にお参りしようと考えて早朝家を出た。近年の山の荒れ方からすると、津屋崎に抜ける山道が通れない可能性も高い。

山道に入ると、倒木は目立つが、歩けないことはない。竹が生えてないことが大きいだろう。一か所、倒木で小さな丸木橋が壊されていたが、その倒木を伝ってなんとか渡る。峠の別れ道まできて、山の斜面をのぼる小道を発見し、にわかに山登りへの欲望が芽生えた。

ここは対馬見(ツシマミ)山といい、津屋崎の海側からは、三角形の姿が目立つ標高243メートルの山だ。その分傾斜がきついことは覚悟していた。滑落の危険を感じるほどではないが、木の幹にすがりつきながら、一歩一歩足元を確かめつつ登る。

山頂からは、樹木の隙間から玄界灘を見下ろすこともできた。ここも自宅から直線でちょうど3キロのところにある。反対側も急傾斜で、樹木だよりの下山になる。富士白玉神社にたどり着き、お参りをすると、ムツコさんからいただいたものと同じ津屋崎人形のキツネがたくさん奉納してある。そのあと津屋崎の側には行かずに引き返した。

山道に入ってから登山とお参りをして戻るまで、一人の人にも出会わなかった。小さな登山だけれども、山は修行の場だとあらためて気づく。仕事や日常のわずらわしさを離れて、自分の生命の力を取り戻したような気分だった。