大井川通信

大井川あたりの事ども

2022-11-01から1ヶ月間の記事一覧

カラスと会話する(31日目)

一昨日は、カラスの群れの中でカンタロウに久しぶりに出会えたが、昨日はいつもの場所で待っていてもカンタロウは来なかった。11月の最終日で、上着なしでは震えるくらい昼休みでも寒くなっている。 今日も、いつもの場所にいくのだが、近頃は公園のモミジの…

こんな夢をみた(くにたち散歩)

国立の実家に戻っている。早朝、街を歩く。住宅街の中に謎のスペースがあるという事前情報を思い出して、その小さな空き地に行ってみるが、古い壁の一部が残っているくらいで手がかりとなるものは何もなかった。 大学通りまでくると、歩道ギリギリまで新築の…

カラスと会話する(29日目)

カラスのカンタロウと交流ができるようになって、29日目。この10日ばかりは、それらしいカラスさえ現れず、カンタロウに会うのをあきらめないといけないと思い始めていた。 今日も、最初に彼に出会ったこんもりした林の中で、ストレッチをしたり、正拳好きや…

球磨郡の仏堂を訪ねる

人吉に入って、まず青井阿蘇神社に参拝する。神社建築にはあまり関心はないのだが、この茅葺の国宝の社殿は別格だった。楼門は三手先組物の本格的建築、拝殿は舟肘木の素朴な建物という対照が面白く、どちらも急こう配のもっさりとした茅葺屋根に民家のよう…

人吉盆地をめざす

月初の鎌倉に続いて、急に思い立って人吉盆地(球磨盆地)に旅行する予定を立てた。出不精で内弁慶の僕には珍しいことだ。 人吉盆地は、隣県熊本の中でも一番遠いところにあって、ほとんど意識したこともない場所だった。しかし今回調べてみると、僕の興味の…

禅宗様仏堂が読経で満たされる(禅宗様建築ノート9)

興国寺仏殿の中で礼拝すると、僧侶からもこし部分(向かって左側の外陣)に並べられた椅子に坐るように促される。千手観音公開日の単なる参拝客で檀家でもないし、祈願の手続きをとったわけでもない。遠慮してもじもじしているうちに、僕一人の立ち合いのも…

従姉の訃報

僕たちの世代と今の若い世代との違いはたくさんあるが、いとこの数もその一つだろう。戦前生まれの親たちは兄弟が多かった。僕の父親は四人兄弟だし、母親は七人兄弟だった。すると、叔父叔母の数が多いわけで、彼ら彼女らが戦後の時代に産む子供の数は戦前…

古建築写真を整理する

僕のようなライトな古建築ファンにやれることは限られている。入門書や解説書をできるだけ多く読むこと。多少背伸びして専門書にも手を出してみること。現地に出かけて実物と対面すること。建物を味わいつつあれこれ思案し、メモを取ったりスケッチをしたり…

『郷愁の詩人 与謝蕪村』 萩原朔太郎 1936

岩波文庫の出版が1988年11月で、その翌月の12月26日に読了したとのメモ書きがある。父とこの本について話した記憶があるから、おそらく父も若い頃に読んで感銘を受けた本だったに違いない。朔太郎節全開の評論だから、朔太郎好きにはたまらないだろう。 蕪村…

僕の先祖意識(母系)について

母親は千葉県の東金の出身で、そこに実家があったから、夏休みになると家族で泊りがけで帰省した思い出がある。九十九里浜の海水浴場まで、バスですぐに行けるくらいの距離だった。 家業は畳屋をしていて、僕が小さい頃座敷で寝ていた祖父に会ったことはわり…

僕の先祖意識(父系)について

自分の祖先について新しく探ろうというのではない。自分が今まで先祖との関係をどのくらい意識して、重視ないしは軽視して生きてきたかを振り返ろうという意図である。結論からいうと、ほとんど意識したことはなかった。 父方の祖父については、戦争の末期に…

『身体論集成』 市川浩(中村雄二郎編) 2001

硬派な哲学論文集だが、面白く読めた。哲学者の細かい議論についていく能力も気力も関心も自分にはもう残っていないと思っていたが、この本は違った。 僕の学生時代から、市川浩(1931-2002)の身体論は著名で何冊かの本はもっているが、例によってしっかり…

カラスと会話する(19日目)

11日目以降、カンタロウだと確信のもてるカラスに出会えなくなった。最初に出会った林のあたりは、実のなる小ぶりの木が密集して生えていて、近頃はヒヨドリの群れがいることが多い。これが原因でカラスが寄り付きにくくなったのではないか。 東公園にはたく…

カラスを待ちながら

このところ、昼休みの公園にカラスのカンタロウがやってこない。すこし土地が高くなった林の中が定位置なのだが、ここで無為に30分の時間をつぶすわかにはいかない。 軽く柔軟運動をしたり、筋トレらしきものをしたりするのだが、正拳突きもメニューの一つだ…

『換気扇の下の小さな椅子で』 清水哲男 2018

今年になって、詩人清水哲男(1938-2022)の訃報に接した。3月7日のことだ。僕は弟の清水昶(あきら)の詩が好きだったし、彼の初期の詩も面白いと思っていたので、多少の好感を持っていた。ただ、たまたま古書店で購入した中年になってからの詩集が、何か…

『伝統木造建築を読み解く』 村田健一 2006

大きな書店に行ったときには、建築(なかでも古建築)の棚で新刊を確認するのは若いころから習慣になっているから、このジャンルで面白そうな本は見逃してはないはずだ。購入してもさっとながめて積読するだけなので、読み通して実際に感銘を受けた本はいく…

『日本の建築遺産12選』 磯崎新 2011

新潮社のヴィジュアル本「とんぼの本」シリーズの一冊で、副題には「語りなおし日本建築史」とある。 2004年発行の美術雑誌の特集記事をもとにしているようだ。 著者の磯崎新(1931-)の話は一度聞いたことがある。1993年の磯崎新展で、自ら設計した北九州…

ついてるね、のってるね

禅宗様詣での一環として、県内の禅宗様仏殿の内部公開に出かける。福智町の興国寺観音大祭だ。駐車場が混んでいることを予想して、少し離れたところにある上野焼会館の駐車場に車をとめて歩く。これは杞憂で境内には受付のテントと関係者の姿が目立つくらい…

リズムはわかるけど力がないから回れない

JR南武線、といっても僕の子どもの頃のようなチョコレート色のダサい車両ではない。すっかり都市郊外を走るお洒落な路線になっていて、西府なんて新しい駅もある。 目の前に、中学一年生の制服姿の男子学生が並んで立っておしゃべりをしている。二人とも小柄…

『おみくじの歌』 平野多恵 2019

詩歌を読む読書会の課題図書。題名を聞いても何のことかわからなかったが、全国各地の神社のおみくじに書かれている和歌を中心にして、おみくじにゆかりの歌を50首集めた解説書になっている。 おみくじには吉凶が書かれているのは間違いないが、和歌があっ…

カラスと会話する(9日目、11日目)

五日間、間をあけて公園に行く。いつもの場所でしばらく待ったが、やってきたカラスは、カアー、カア―という鳴き方をするばかりで、ちょっとカンタロウ(この名前にしました)らしくない。それでも、近場の木にとどまっていたから、おそらくカンタロウだった…

『近世俳句』 暉峻康隆 1954(学燈文庫) 

学燈文庫は、学燈社から出版されていた、国語の学習参考書のような文庫だった。地味な黄土色のカバーで、俳句や短歌、現代詩(僕はとくに『現代詩の基礎学習』のお世話になった)の丁寧な解説書の他、漱石や芥川などの近代文学や徒然草などの古典の解説もあ…

稲葉天目を観る

5年ほど前、曜変天目の再現に人生をかける陶芸家のドキュメンタリーがあって、強い印象を受けた。その陶芸家(九代長江惣吉)の淡々とした人柄も好ましかったが、何よりその破格の情熱に心を奪われた。 それ以来、焼き物について何の知識もない僕にも、曜変…

高安寺観音堂 東京都府中市(禅宗様建築ノート8)

禅宗様建築についての文章を書くのが若い頃からのひそかな夢だった。もちろん専門的な記述をすることはできないから、僕の禅宗様体験ともいうべきことを主観的に書き綴るだけだ。国宝、重要文化財の遺構が話題の中心になるけれども、個人的に因縁のある建物…

英勝寺仏殿 神奈川県鎌倉市(禅宗様建築ノート7)

鎌倉では、もう一つ禅宗様仏殿を見る。1636年という江戸初期の建物で、山門や鐘楼などとともに、ごく最近重要文化財に指定されている。 鎌倉唯一の尼寺ということで、歴史的な由緒も興味深く、伽藍も街道沿いにコンパクトにまとまっている。「拝観のしおり」…

建長寺法堂 神奈川県鎌倉市(禅宗様建築ノート6)

鎌倉は、中学での遠足以来だと思う。その時はグループ行動だから、建長寺の門前を通過しただけで、境内に入ることはできなかった。修学旅行で東大寺の二月堂を見ることができなかったのと、同じパターンだ。※写真で確認すると、20代の頃にも一度行っているよ…

円覚寺舎利殿 神奈川県鎌倉市(禅宗様建築ノート5)

円覚寺舎利殿はかつて、鎌倉時代にさかのぼる禅宗様建築の典型として扱われていた。だから日本史の教科書なども、中世建築の新様式の説明では、大仏様は東大寺南大門、禅宗様は円覚寺舎利殿が写真付きで紹介されている。 ところが研究が進んで、実際は焼失を…

正福寺千体地蔵堂 東京都東村山市(禅宗様建築ノート4)

東京都内唯一の国宝建造物である正福寺千体地蔵堂を見るために初めて東村山を訪れたのは、たぶん中学生の時だったと思う。身近に禅宗様建築の貴重な遺構があるということから、僕は古建築の中でもとりわけ禅宗様という建築様式のファンとなった。 禅宗様の魅…

10月を振り返る

10月に入って、高村光太郎の「秋の祈」をずいぶん朗唱した。気分が高揚して、転機となる月だったのだと思う。 気候が良くなり、大井川歩きと歩きながらの聞き取りを、本格的に再開する。偶然が重なり、思ってもみない人から面白い話を聞かせていただく。月例…

里山でイノシシに出会う

ヒラトモ様にお参りしようと山に入るが、林道が相当荒れている。林業の作業のために重機で掘り進んだような林道は、人口の谷か溝のようなものだから、大雨の時に落ち葉や枝が流れ込んでしまうし、枯れた竹が倒れこんでしまう。使われずに管理されなくなった…