11日目以降、カンタロウだと確信のもてるカラスに出会えなくなった。最初に出会った林のあたりは、実のなる小ぶりの木が密集して生えていて、近頃はヒヨドリの群れがいることが多い。これが原因でカラスが寄り付きにくくなったのではないか。
東公園にはたくさんのカラスがいる。カラスが集まっているところを通りかかると、カア―、カア―と適当に鳴きまねをする。カンタロウが交じっているなら、きっと気づいてくれるはずだ。しかしカラスたちは、妙になれなれしい人間を不審がって、連れ立って飛び去ってしまう。
空振りを覚悟して昼休みにいつもの場所にいって、しばらく待つ。すると、たまたま通りかかったという感じではなくて、何かを見つけてやってきたという風に、さーっと低く林の中を飛んできて、少し先の木の枝にとまったカラスがいる。
カンタロウだ。久しぶりに見るカンタロウは、ハシブトガラスにしてはほっそりと見える。カンタロウは若く小さなカラスだったんだとあらためて目に焼き付ける。
すると、口をあけて喉を伸ばし、身体をぶるぶると震わせながらゴロゴロやりだす。こんな奇妙な鳴き方を人間に見せるのは、カンタロウしかいない。僕もそれのマネをしてみるが、スマホで動画を撮ろうとしたのがいけなかった。
カンタロウは少し離れた髙木に移って、さかんに木の実を食べだす。僕もついていって、木の下で鳴きまねをする。カンタロウに対して、こちらが「普通の」人間でないことをしっかり印象付けないといけない。
カンタロウは鳴きまねには興味がなくなったみたいだったが、真下にいても逃げないのは、僕の存在に関心を持っているからだろう。休み時間の終了が近づいた僕の方がその場を離れる。