大井川通信

大井川あたりの事ども

2019-01-01から1年間の記事一覧

年末の一日

大晦日になってようやく時間がとれたので、小倉の黄金市場にでかける。「なんもかんもたいへん」のおじさんに年末のあいさつをするためだ。 モノレールを降りて、黄金市場の入り口に近づくと、意外なことにいつもより人通りが多い。寿司屋の前には、ビニール…

高学歴ニートにおごる金はない

次男には、子どもの頃から不思議な才能が有って、家にあるおもちゃを組み合わせて、自分で新しい遊びのルールを思いついたりした。そんなとき、おとなしい長男は、4歳年下の弟の考えた遊びに喜んで加わっていた。 中学の時の特別支援学級の担任に久し振りに…

銀杏のホウキ

高村光太郎の詩「冬が来た」の中に、銀杏の木も箒になった、という表現がある。読書会で読んでいて、これがよくわからないという感想があった。冬になって、銀杏の黄葉が落ちつくして、残った枝がまるで竹ぼうきのように見えるということだろう。 僕には抵抗…

「すべての瑣事はみな一大事となり/又組織となる」

詩歌を読む読書会で、高村光太郎(1883-1956)の処女詩集『道程』(1914)を読んだ。ひと昔の前の評論では、日本近代詩の傑作詩集みたいな言葉が躍っているが、今普通に読むと、詩として受け取るのはけっこうきつい。会の主宰も「つまらなかった」ともらし…

クレープの味

妻から聞いた話。 金曜日の夜は、次男は一駅前で降りて、ショッピングモールの中で夕食をとり、整骨院でマッサージを受けてリラックスする。僕が忘年会だったので、長男の運転でモールの次男を迎えに行き、3人分のクレープを買って戻ったそうだ。 テーブルを…

落とし物シンドローム

妻が彫金教室の帰り、道具や作品をつめたキャリーバックを無くしたと青くなっている。博多駅前広場でイルミネーションを見て、ケーキを買って、駅ビルのエスカレーターに乗っているとき、ふと、キャリーバックを引いていないことに気づいたのだという。中に…

ハイイロゲンゴロウの昇天

今年、十何年かぶりかで、ゲンゴロウを飼った。その前は、50年前の小学生の時にさかのぼる。 今年は、ウスイロシマゲンゴロウという、初めての種類を見つけたのがきっかけだった。8月13日のことだ。ウスイロは、小さなオタマジャクシを与えたときなど、ハ…

車の販売店の担当が変わる

僕が今乗っているのは、人生で5台目の車だ。以前の上司で、80台以上車を乗り換えたという人がいたが、昔の感覚で言えば、年齢の割にずいぶん少ない台数ということになるだろう。だだ車に対する価値観もずいぶん変わり、今の若い人たちは車を欲しがらなく…

登記を為すに非ざれば対抗することを得ず

「不動産に関する物権の得喪及び変更は登記法の定める所に従い其登記を為すに非ざれば之を以て第三者に対抗することを得ず」 改正前の民放177条は、全文をあげるとこんな条文だった。実際は旧仮名遣いでカタカナ表記だから、さらに読みにくくなる。今では、…

ビブリオバトル初参戦

地元のグループが主催するビブリオバトルの講座に初参加して、気づいたことをいくつか。やはり、この方法は、読書についての経験も趣味嗜好もさまざまな人たちを、横一線に同じ場所に立たせるという点ですぐれたものだと思う。 読書好きというのは、ともすれ…

『セミ』(ショーン・タン)のビブリオバトル紹介編

地元でビブリオバトルの入門講座に参加したら、その場でビブリオバトルの実演をすることになった。生まれて初めての経験だ。一冊お気に入りの本を持参する指示があったので、予想はつくことだったけれども。 そこで僕は、5分でこんな話をした。終了後に、講…

東京経済大学の思い出

僕の知っているのは、今から40年近く前の東京経済大学だ。 東経大は、東京郊外の小規模な私立大学だけれども、個性的で気鋭の研究者がそろっていた。フランス現代思想の今村仁司先生と、当時人気学者だった栗本慎一郎と経済人類学でライバル関係にあった山崎…

京都精華大学セット

大井の古民家カフェ村チャコの小川さんの息子さんが、京都精華大学に進学することが決まったらしい。ジュンノスケ君のことは、中学生の頃からよく知っているから、お祝いに何か贈りたい。それで、手持ちの蔵書から、この大学の先生の本をセレクトして渡そう…

『螢川・泥の河』 宮本輝 1977

読書会の課題図書で、宮本輝(1947-)を初めて読む。 『泥の河』は、昭和30年の大阪を舞台にし、『螢川』は、昭和37年の富山を舞台にしている。いずれの作品でも、作者にとって地名と年号を明記することは大切で抜かすことのできないことだったのだろう。戦…

イノシシの伯父さんへ

伯父さんとお別れしてから、もう20年近くが経とうとしています。昨年に母が亡くなり、国立の家で暮らしていた二組の夫婦の全員が、この世を去ったことになります。二家族の子どもたちも、全員還暦前後となりました。 姉も実家を従兄にゆずることを決め、僕も…

次男の子育て(高校入学)

夏の一次試験、冬の二次試験と倍率3倍の試験をかいくぐって、特別支援学校高等部の一般就労を目指すクラスに合格した。二次試験では面接対策がぬけていたにもかかわらず、こわもての先生の質問にも臆せず単語で切り返す様子は、後から何度も笑い話の種になっ…

次男の子育て(中学校時代)

いよいよワタルもブレザーの制服を着て、中学に通うようになる。 小学校までは、1キロ弱だったが、中学までは2キロ以上の道のりで、自転車通学が認められていた。長男は幼稚園時代から自転車を乗り回していたが、ワタルは友だちと遊びまわる機会もなかったか…

似たものクイズ ‼︎

自然のなかには、よく似たものがあります。比べて、共通点に気づいたり、違いを見つけたりすることは楽しいし、自然を深く知ることにつながります。 それでは、浜辺でひろった固い殻シリーズでいきましょう。 では、一問め。そう、これは貝です。カズラガイ…

『ウニ ハンドブック』 文一総合出版 2019

職場近くの浜辺で、宇宙人の頭蓋骨のような奇怪な生き物の殻をひろって以来、僕はすっかりウニ類の殻を集めるのに夢中になってしまった。調べると、ヒラタブンブクというウニの一種だとわかったのだ。それ以外にも、ひらべったい円盤のようなカシパンという…

僕が『生まれる』ときには

生と死は、対の言葉としてよく使われる。でも、生の反対語は、はたして死なのだろうか。いやそうじゃない。生の反対は、「生まれなかったこと」ではないのか。 ある哲学者がそんなことを言っていた。哲学者の言葉というのはたいてい、当たり前にわかっている…

鳥たちと虫たちと

通勤で、川沿いの道を下流へ車を走らせる。そのとき、上流へと川をパトロール中のミサゴとすれ違う。鋭い眼光で獲物をねらっている狩人の登場に、僕のほうにも緊張が走る。 堤の下には、アトリやチョウゲンボウのいた農耕地が広がっているが、今朝はその気配…

僕が『食べる』ときは

僕は、目の前に食べ物があると、抑制がきかずに口のなかに放り込んでしまうようだ。職場の宴会の席では、ほとんどお酒を飲まないから、自分の前の料理を片付けることに専念するしかない。その様子を見ていた同僚から、冗談まじりでこんなことを言われたこと…

僕が『掃除する』ときは

今週末に、長男が帰省する。帰省、というか仕事を辞めて帰ってくるのだ。 仕事の中身や、会社の現状を聞くと、そういう選択肢もありなのかと思う。一つところに長く勤めていることでどうにかなる、という時代ではなくなっている。自分の職業人生の長期的な目…

チョウゲンボウの狩り

二年前の冬、チョウゲンボウを見た、という記事を書いた。アトリを探し歩いている冬枯れの農耕地で、久しぶりにチョウゲンボウに出会った。 電線に姿勢よくとまるすっきりとしたシルエットは、一見して鷹だとわかる。カラスよりは一回り以上小さいが、尾羽が…

僕が『歩く』ときには

では、僕が今日、どんなふうに歩いたかを振り返ってみる。 用事から家に戻ったときには夕方で、暗くなるまで一時間もない時だった。それでも歩こうと思ったのは、ちょっとした当てがあったからだ。 昨日昼間、家の近所を車で通りかかったときに、道路わきの…

『歩く』は『食べる』に匹敵するほど『生きること』に通じている

村瀬孝生さんの『ぼけてもいいよ』からの言葉。 93歳を迎えたトメさんは、実際は数十キロも離れたところにある自宅に帰ろうとして、不自由な身体をおして出発する。わずかの距離を30分かけて歩いて、力尽きてすわりこむ。村瀬さんは、そんな彼女の「歩く」に…

手帳の話

今年もまた、新年度の手帳を購入する時期がやってきた。 僕は、若いころから仕事用の手帳を使ってきたけれども、その使い方はまるで下手だった。ほとんどを捨てずに持っているので、それを見比べると一目瞭然だ。 まるで日記みたいに、年度当初だけつけて、…

『偕成社/ジュニア版 日本文学名作選』 全60巻 1964-1974

僕が子どもの頃、おなじみだった赤いカバーの近代日本文学のシリーズ。ポプラ社にもよく似たシリーズがあったけれども、偕成社版が本物のような気がしていた。やや小ぶりだけれども厚めのハードカバーで、江戸川乱歩シリーズやホームズやルパンのシリーズと…

『小学館/少年少女世界の名作文学』 全50巻 1964-1968

実家の隣の従兄の家にあった子供向け文学全集。 僕たち姉弟は、隣の家を図書館がわりにしていたから、このシリーズにもだいぶお世話になった。僕は拾い読み程度だったけれど、本好きの姉は全巻を通読していたのではないか。 一冊がかなり大きく分厚い本で、…

『波』 山本有三 1923

三鷹の山本有三記念館にいく。太宰治が入水自殺をした玉川上水に面した道にあるが、あたりはすっかり整備された住宅街になっている。 戦前、山本有三(1887-1974)が住んでいた洋館だが、改修したばかりのようでとてもきれいだ。西洋館を見て特別に感心する…