地元でビブリオバトルの入門講座に参加したら、その場でビブリオバトルの実演をすることになった。生まれて初めての経験だ。一冊お気に入りの本を持参する指示があったので、予想はつくことだったけれども。
そこで僕は、5分でこんな話をした。終了後に、講座に参加した何人かの子どもたちが、結末を読ませてほしいとやってきたので、まあ成功だったのだろう。
僕は、今年の夏、セミの声を聞き分けるのに夢中でした。みなさんは、セミを何種類くらい知っていますか。僕が今年近くの神社の森で発見したのは、ヒメハルゼミという珍しいセミです。
ところで、セミの幼虫の期間は、種類によって異なるのですが、クマゼミはだいたい7年といわれています。だから、東日本大震災の年の夏に鳴いていたクマゼミの子どもが、今年の夏に鳴いているという計算になります。外国には、幼虫で17年を過ごすセミもいるそうです。
セミの幼虫は夏に羽化して成虫になりますが、そのあと一週間とか十日しか生きられないとよくいわれますよね。だから、セミには「かわいそう」とか「はかない」というイメージがあるのでしょう。
僕は、自分の家の庭でクマゼミの抜け殻や成虫の死骸の調査をしました。すると抜け殻はほぼ7月の間に見つかり、成虫の死骸は8月の間に見つかることがわかりました。このことからでも、成虫の寿命が一か月程度あることはわかります。実際に最近の研究でもそれは確かめられているようです。
一か月くらい生きられるなら、他の虫と比べてもそんなに短いわけではないでしょう。地中で、木の根から水分を吸いながらゆっくりと成長する落ち着いた生活と、夏の陽光のもとで、仲間たちと空中を飛び交うダイナミックな生活。全く違った二つの人生を、一生のうちに味わえるのですから、「かわいそう」というより、むしろ「うらやましい」生き物だと思えるようになりました。
さて、今日、僕が紹介したいのは、現代の人気絵本作家ショーン・タンの最新作『セミ』です。(表紙をみせて)主人公はこのセミなのですが、ちょっと「きもい」でしょう。
彼は、スーツを着て、こんなふうにオフィスで働いていたり、上司から怒られたり、人間の同僚からいじめられたりします。同じ勤め人として、本当に身につまされるところです。こんな彼に、はたしてどんな結末が訪れるのでしょうか。そのヒントは、今僕が話したセミの一生の物語の中にあります。
ごく短い絵本ですが、感動のラストが待ってます。ぜひ手に取ってみてください。