我が家の玄関先には、ブリキのカエルの人形が置いてある。素朴なカエルの造形なのだが、起き上がった姿勢で、左肩に棒のようなものを担いで、人間みたいに歩いている姿だ。
その担ぎ棒の先端に、セミの抜け殻が二個ついている。よく見ると、空だった右手のてのひらにも、セミの抜け殻が二個ついている。カエルくん、獲物を四匹捕まえて、意気揚々と家族のもとに帰るところ、に見える。
実際には、地中から出て来たセミの幼虫が、何とか安全に羽化できる場所を求めて、このブリキの人形のもとに集まったわけだ。今のところ、我が家の庭で見つけたセミの幼虫は10匹ばかり。かなりの確率で、ブリキのカエルくんのお世話になっている。
これには理由がある。二年前に我が家の外回りのリフォームをして、荒れるに任せていたレッドロビンの生け垣を引っこ抜いて、擬木のフェンスに変えてしまった。玄関わきの花壇をつくったり、庭に低木を植えたりしたが、セミの幼虫が使える木は激減してしまった。
羽化できる木が少なくなると、羽化に失敗するリスクも高まるのだろう。まだ夏の初めだが、一晩中歩き回っても羽化の場所を見つからずに弱っている幼虫をすでに二匹見つけている。こうした幼虫は、良さそうな木につかまらせても、もう羽化する力はなく落ちてしまう。
また、羽が伸び切らずに飛べない成虫を一匹見つけた。おそらく小さな直物の茂みなどの不十分なスペースしかないところで羽化してしまったのだろう。ケヤキのずいぶん高い枝にも抜け殻があったりするが、セミの幼虫は、少しでもリスクを下げるために、本来はより高くより先の枝を求める習性があるはずなのに。
そんなわけで、我が家のカエルくんはセミたちの救世主だ。次の利用者のために獲物を取り上げてスペースを作ってあげておくことにしよう。