大井川通信

大井川あたりの事ども

2021-01-01から1ヶ月間の記事一覧

冬晴れの鳥たち

年末から年始にかけてのしつこい風邪と、年明けの寒波や大雪の影響で家に閉じこもりがちとなり、大井の周辺をゆっくり歩くのは、一月も終わりになってしまった。さいわい冬晴れで日差しの暖かな午後だ。 住宅街を下りていくと、さっそく林の暗がりにアオジの…

りぼんちゃんと九太郎(三週目)

三週目に入って、りぼんちゃんと九太郎の関係もだいぶ落ち着いてきた。九太郎は相変わらず二階に偵察にやってくるし、りぼんちゃんが一階に来ていても、あわてたり騒いだりすることもなくなった。 りぼんちゃんはいたって自然体で、一階リビングの九太郎のゲ…

萩原朔太郎「虎」1934

虎なり/曠茫(コウボウ)として巨象の如く/百貨店上屋階の檻に眠れど/汝はもと機械に非ず/牙歯(キバ)もて肉を食ひ裂くとも/いかんぞ人間の物理を知らむ。/見よ 穹窿(キュウリュウ)に煤煙ながれ/工場区街の屋根屋根より/悲しき汽笛は響き渡る。…

「ショーン・タンの世界展」を観る

ショーン・タン(1974-)の絵本は何冊か読んで気に入っていたし、コロナ禍で美術展に行く機会もめっきり減っているので、楽しみにして観にいった。時節柄、入り口では入場人数の制限などしていて、期待もたかまる。 原画や制作ノートや様々な資料が展示され…

セミとクワガタの話

久しぶりに会った知人を、鉄板ネタでもてなす。 まず、セミの幼虫はなんで長期間地面の下にいるのか。まずはクマゼミとアブラゼミとの地中での年数の違いや、カブトムシはどうなのかという伏線をはり、僕の家の庭で毎年ひろえる抜け殻の数から、地中の状態を…

『倒錯のロンド(完成版)』 折原一 2021

1989年に刊行された作品の完成版。文庫本で以前読んでいたので、加筆修正箇所を確認しようと思って蔵書を探したのだが、見つからなかった。 メインのトリックは漠然と覚えてはいたが、ストーリーがシンプルで分かりやすく、ぐいぐい引き込まれた。ただ、終わ…

『できるヤツは3分割で考える』 鷲田小彌太 2004

著者の鷲田小彌太(1942-)は、僕にはなつかしい書き手だ。柄谷行人や今村仁司と同世代で、マルクス研究を出発点として現代思想を幅広く吸収し、どん欲に研究や評論の幅を広げてきたという共通点がある。実際、この二人をライバル視する発言をしている。た…

『オーランドー』 ヴァージニア・ウルフ 1928

読書会の課題図書。 主人公のオーランドは、16世紀から20世紀までの360年間を生き抜いたにもかかわらず、年齢は36歳。17世紀には、性別が男から女に変わっている。「伝記作家」という語り手の存在が絶えず顔をのぞかせたり、性別の転換がなんの説明もなく告…

ぬいぐるみが手放せない

休日の朝、コメダ珈琲で本を読んでいると、斜め前の席に、小太りの30代くらいの女性客が座った。透明なゴミ袋みたいなビニールに包んだ大きな手荷物をもっている。なんだろう。気になってみると、大きなぬいぐるみだった。 従姉妹のアサコは、幼児の頃、小さ…

『日本習合論』 内田樹 2020

久し振りに内田樹の本を読む。神仏習合という、大井川歩きにとってもど真ん中のテーマを扱っているからだ。相変わらず、面白い。内田樹だから面白いに決まっている、という感じもするが、そういう期待の中で本を書き続けるのはどんな気分だろう。 偶然、再来…

お札が増えるという事件

カーナビが完全にいかれてしまった。使いこなせてはいないが、少なくとも地図としては役立っていたし、オーディオの機能もあるから音楽が聴けなくなるのは、バンメのニューアルバムが出たこの時期にはことさら痛い。 古い車だけれども、まだ数年は乗るだろう…

トンネルから~♪ さようならのこと♪

「ぐるっとまわって、ビッグウェイ♪」のことを、妻に話してみたら、長男は別の作詞作曲もしていたと言って、こんな節を口ずさむ。 「トンネルから~♪ さようならのこと♪」 そうだった! 知人の子どものトンネルエピソードに触発されたなら、こちらをまっさき…

ぐるっとまわって、ビッグウエイ♪

若い人と話していたら、幼い子どもが好きなモノについて面白い話を聞いた。彼は教師なのだけれども、生徒たちの興味が向かう方向が分からない、自分の子どもについてはいっそうわからない、ということだった。 彼の子どもは電車が好きなのだが、よくよく聞い…

りぼんちゃんと九太郎

りぼんちゃんが家に来て一週間。二階の部屋にケージを置き、教えられたとおりに、一階に住む九太郎と、少しずつ顔合わせの機会をつくるようにした。 りぼんちゃんは生まれて半年間、猫族の中でもまれて育ってきているから、九太郎をみかけてもまったく動じな…

『お役人さま!』 廣中克彦 1995

当時、宮本政於の『お役所の掟』などの霞が関の内情を暴露する本が話題になったために、それに続く企画として、同じ講談社から出版された本だったと記憶する。ただし、こちらは都庁のノンキャリヤという、かなり下っ端の役人たちの生態を、「出入り業者」と…

こんな夢をみた(ある工場の倒産)

そこはリッカーミシンの立川工場だった。人の出入りに紛れて、中に入ってみる。天井が低く古い建物だ。ちょうど倒産の知らせがあった頃だろうか。父親の姿を探してみるが、もう退職したあとだろうと気づく。 受けつけの裏には、ひろい事務室みたいなのがある…

翻訳詩を読む

読書会の課題図書で、ボードレールの『悪の華』(再版 1861)の安藤元雄訳を読む。僕はもともと翻訳された詩というのは、まがいもののような気がしてあまり読む気がおきなかった。 若き芥川が、「人生は一行のボードレールにも若かない」とつぶやいた頃は、…

家族人形のその後

我が家には、四人家族を見立てた四体の人形と、あとから家族になった猫の人形がある。一昨年、家に迷い込んで4カ月で亡くなってしまった八ちゃんと、そのあと家に来た九太郎の人形だ。 どれも筑豊の山の中に木工工房をもつ内野さんの作品である。新しく家族…

物置部屋のコレクション

僕は本を買うのが、唯一の多少のぜいたくだから、家のあちこちに収納のための本箱が置いてある。二階の物置部屋にスチールの本棚があって、その一番上の目立つ棚は、一段全部が、ずらっと岡庭昇の著作のコレクションだ。ざっと40冊ばかり。全著作ではないが…

こんな夢をみた(死仮面)

ギャラリーのような白い壁面に囲まれた部屋で、僕は死んだ人の顔の皮をていねいに壁に並べてはりつけていく。こう書くとひどくグロテスクのようだが、実際に顔の皮というのは、白いビニールみたいな材質で、眼鼻口の部分に穴が開いた個性のないもので、少し…

通りすがりの女に

朝からコメダ珈琲で、ボードレールの『悪の華』をしこしこと読む。この訳詩集の中に、「通りすがりの女(ひと)に」というタイトルの、こんな詩があった。 街中で、一瞬、喪服姿の美しい女性とすれちがう。彼女の瞳に、「魂を奪うやさしさ」と「いのちを奪う…

りぼんちゃんのやってきた日

九太郎に続いて、二匹目の猫が我が家にやってきた。7月7日の七夕生まれだから、生後半年になる。秋の雑木林のような、はなやかな体色をしている。あるいは、そこから抜け出してきたリスのようだ。おでこに縦にミカン色の模様が目立つ。 キクイタダキ(菊戴)…

雪道と前輪駆動車

地球温暖化のせいか、もともと雪の少ないこの地方でも、近年ますます雪が降らなくなっている気がする。年に一回か二回、それも印象に残らないくらい薄っすらだったり。 ところが、今回は大寒波の襲来で、大雪が降ると天気予報がいう。予報通り、一日目は午後…

『日本はどこで間違えたのか』 藤山浩 2020

著者は1959年生まれ。ほぼ同世代だ。1960年代から10年ごとに日本社会の進行をコンパクトにまとめて、各時代の特色と問題点を明確に指摘する。著者の個人史も交えての論述は、僕自身の生きた同時代の解説でもあるから、興味深く、ありがたかった。 その分析の…

ぽけっとがいっぱい

長男が幼児の頃、ポケットが大好きだった。本人のリクエストで、ズボンには、母親が追加のポケットをいくつも縫い付けていた。 ウルトラマンの変身アイテムや、ピストルみたいな武器を、ひとつひとつそこにいれるのだ。それで家の中では、自動車に見立てたテ…

『ゲンロン戦記』 東浩紀 2020

病み上がりで今年初めて読んだ本。すらすらと読めて、さわやかな読後感が残った。読んでよかったと思った。 東浩紀は、10歳年下で、そのためか著名な批評家だけれども思い入れを持ったことがない。しかし、少し遅れて『弱いつながり』(2014)や『観光客の哲…

10年日記の効用

小学校の2年くらいから中学生の頃まで、父親に言われて日記をつけていた。初めのうちは親が点検していたから、小学生の内は毎日つけてある。中学の後半はもう書かなくなっていた。その後、社会人になってからも時々日記をつけようと思い立つが、2月か3月…

「沖」の由来

「ここには古くから、『沖』と呼ばれる古屋があった。この名の由来は定かではないが、この古屋は、母屋と納屋と、土蔵に連なる離れ屋から成っていた。決して分限者の構えではなかったが、庭には、青桐や楓、槙などが機嫌よく樹っていた。その佇まいは結構和…

諸星大二郎『西遊妖猿伝』を読む

年末年始休みに入る前に立てた目標の中で、唯一実現できたものが、諸星版の西遊記を読み切るというものだった。長編小説の名作を、とも思ったが、僕にはそれより諸星だろう。寝込んだ後、多少気分が良くなってもできることがない。その間、がつがつと読み進…

オリンピックと万博とリッカーミシン

リッカーミシンの立川工場をネットで検索したら、東京五輪を回想する記事が見つかった。1964年に開かれたオリンピック代表選手の壮行会の写真を取り上げている。前に立つ吉岡隆徳監督や依田郁子選手らの姿と、その前に並ぶ工員たちの後ろ姿が写っている。工…