大井川通信

大井川あたりの事ども

「沖」の由来

「ここには古くから、『沖』と呼ばれる古屋があった。この名の由来は定かではないが、この古屋は、母屋と納屋と、土蔵に連なる離れ屋から成っていた。決して分限者の構えではなかったが、庭には、青桐や楓、槙などが機嫌よく樹っていた。その佇まいは結構和ませるものがあった。

勤勉・質素・互譲の生き方を自らの美徳として、生き抜いた者達の生家であった。私もここで生まれ育った。時代は変遷し、人々の暮らしや地域のあり方も徐々に変わっていくものであるが、この生き様をいつまでも残しておきたい。

この思いを込めてこの跡地に建設する集合住宅の名称を『沖』と呼ぶことにした。末永くこの名と共に平和な暮らしを進められることを希う。2006年4月6日 安部健」

 

※何年か前に、河東地区を歩いていて、「シャーメゾン沖」という賃貸アパートの門柱に、この文章の書かれた小さな看板を見つけて、深く印象付けられた。どこにでもある旧集落近くでの小規模な開発。しかしそこが人の暮らした土地である以上、誰かの記憶が刻印されているのだ。先日再訪すると、この看板は撤去されていたので、かつてこの土地に住んだ家族の思いに耳を傾ける手がかりはない。けれど、その思いは「沖」という呼び名の中に残響し、住民たちを見守り続けることだろう。当時撮った看板の画像を偶然見つけたので、書き写しておく。


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