大井川通信

大井川あたりの事ども

『宅地崩壊』 釜井俊孝 2019

僕が住む住宅街は、小さな里山の一部を切り開いたものだが、僕が引っ越してきた当時はまだその大部分の造成が終わっていなかったから、坂の突き当りには高さ5メートルばかりの崖が続いており、また、区画の別の端まで行くと、そこからは深い谷になっていた。

ほどなく、住宅街は緩やかな傾斜の丘に生まれ変わり、つまり崖は崩され、谷は埋められてしまい、どこが切土(きりど)でどこが盛土(もりど)なのかは全くわからなくなっている。また、区画のはずれの段差には擁壁が建てられてから、土砂を流し込んで宅地を作っていた。

この本で指摘される「谷埋め盛土」「腹付け盛土」「崖っぷち盛土」などの実例を目の前で見ていたわけである。また、僕の宅地は、かつて施設のグラウンドの土地を斜面の住宅街に造成しているので、谷埋めではないものの盛土であり、家のわずかな傾斜が地盤の沈下によるものでないかとずっと気になったままだ。

著者はジャーナリストなどではなく、この問題に長く取り組んできた研究者だ。あらゆる自然災害を詰め込んだ「島弧変動帯」に住む日本人は、地学こそ基礎教養にする必要があるという主張は新鮮で説得力がある。

近年の読書で、大井川歩きの原点である住宅(街)についてのハンデな基本書が出そろった。土木工学と斜面防災の立場から『宅地崩壊』(釡井俊孝)が、都市計画と住宅過剰供給の観点から『老いる家 崩れる街』(野澤千絵)が、建築計画と住宅街の生理(持続性・多様性)の視点から『町を住みこなす』(大月敏雄)が、それぞれ得難い知見をもたらしてくれるだろう。

 

ooigawa1212.hatenablog.com

 

 

ooigawa1212.hatenablog.com