怪談版「ヒラトモ様の祟り」台本 2026.8.1.上演
【前説】
みなさんは、宗像の小さな山の上にあるヒラトモ様という神様を知っていますか。
宗像の伝説を集めた古い本には、こんな風に紹介されています。
「宗像の大井村の丘の上に、小さな石のホコラがある。土地の人はヒラトモ様と呼んでいる。ヒラトモ様は、壇ノ浦の闘いに敗れて、この里に落ち延びた平家の偉いお侍だ。追手に迫られ、自害したヒラトモ様を弔って、小さなホコラを建て、今も村中で毎年お祭りをしている」
しかし、私が歴史を調べると、平家のお侍の墓というのは真っ赤なウソであることがわかりました。だから、本当の神様の由来を、こんな紙芝居にしてみたのです・・・(一つ、聞いてみて下さい)
【紙芝居1枚目】
さあ、さあ、今から「ヒラトモ様」の紙芝居をやるよ。面白くてちょっと悲しい神様の物語だ。
宗像には、古墳群といって、小さな古墳がたくさんある山があります。今からお話しするヒラトモ様は、そんな古いお墓をめぐる物語です。
【紙芝居2枚目】
今から200年くらい前の江戸時代のお話です。村の丘のてっぺんに誰のものかわからないお墓がありました。あるとき村人が掘ってみると、刀やカブトやお金が出てきました。
【紙芝居3枚目】
それから50年ばかりたった江戸時代の終わりです。伝染病のコレラで村人がつぎつぎに亡くなりました。村人たちは、これをお墓から宝物を盗んだタタリと考えたのでしょう。名無しのお墓のわきに、小さな石のホコラをたてて、伝染病が収まるように祈りました。
【紙芝居4枚目】
ところが、明治維新がおきて、世の中は戦争の時代になります。村人も徴兵されましたが、村の神様は「和歌神社」という名前で、和歌の名人をお祭りしていますから、争いごとは苦手です。
【紙芝居5枚目】
そこで、人気が出たのは山の上の神様です。刀やカブトが埋まっていたのは、平家の有名なお侍のお墓だったのだろう。戦争のお願いなら山の上の神様がいいということになり、「ヒラトモ様」と呼ばれるようになりました。
昭和になると、徴兵された村人の無事を祈り、願いがかなって戦争から帰って来た場合にはお礼に木刀を納めていたそうです。日本の戦勝祈願のために村の婦人会が当番でお参りするようになりました。
【紙芝居6枚目】
今から80年前、昭和20年に日本が戦争に負けると、戦場から兵士たちが村に帰ってきました。しかし、平和の時代になったために、村人はヒラトモ様にお礼をしなくなりました。戦争のお願いをした神様のことを、みんな忘れたかったのかもしれません。
【紙芝居7枚目】
もともとは名無しのお墓だったヒラトモ様は、平家に関係のある戦争の神様にさせられたあげくに、今では忘れられて、もとの名無しの神様に戻ってしまったのです。
やがて、山の半分が削られて、みかん畑になりました。山の斜面にはソーラーパネルが設置されるようになりました。ヒラトモ様のいる山の上もずいぶん窮屈になっています。
【紙芝居8枚目】
村人から忘れられたヒラトモ様は、今、どうしているでしょうか。
木刀の代わりに、木の根っこの棒切れたちを家来にして、月明かりに照らされて、毎晩山のうえでお祭りを楽しんでいるのです。
(これで、ヒラトモ様の紙芝居を終わります)
【間奏】
・子ども:「紙芝居のおじさん! ヒラトモ様はなんて楽しい神様だろう。私も会いにいきたいなあ! ヒラトモ様のいる山を教えてよ!」
・紙芝居のおじさん:(急に怖い顔になって)「いや、それはだめだ。ぜったいにヒラトモ様に会いにいってはいけないんだ」
「仕方がない。本当のことを教えよう」
【懺悔話】
これは、私の懺悔話になります。
私が、この「宗像伝説風土記」を読んで、ヒラトモ様を探したのは、今から12年前の、寒い冬でした。山の中でやっとで見つけたヒラトモ様は、とても不気味な姿をした石の神様でした。人間みたいな形をしたたくさんの木の根っこが、ホコラを取り巻いていたのです。
私は怖くなって、無我夢中で、山を駆け下りました。ヒラトモ様に手を合わせることも忘れていたし、無意識に、ホコラにお供えしてあった古いお賽銭をつかみとっていたのです。
これでヒラトモ様の怒りに触れてしまったのでしょう。
それから一週間後、私は一人暮らしをする母親から思いがけない電話を受けました。(リーン、リーンと携帯の着信音をならす)
「なんだい、母さん、・・お前に貸したお金って・・おれはそんな電話かけてないよ。・・いや、それは俺じゃない。・・なに、俺の職場の同僚のヒラトモさんという人が、お金を取りに来たって・・うそだろ・・で、いったいいくら渡したんだ。・・え、500万円!」
(一瞬、固まったあと、肩を落として観客に向かって話す)
そうなんです。私の母親は、こうして500万円を盗られてしまったのです。しかし、母親からお金を奪ったのが、今はやりのオレオレ詐欺ではなく、ヒラトモ様のタタリだったことを、私は誰にも話せませんでした。
それ以来、私はこうして、紙芝居をすることで、ヒラトモ様の霊(たましい)を慰めているのです。
だから、みなさん、(初めてヒラトモ様の写真をみせて)宗像の山の中でこのホコラを見つけても、絶対に近づいてはいけません。絶対に・・・・
(これで終わります)