大井川通信

大井川あたりの事ども

子どもの本

『メメンとモリ』 ヨシタケシンスケ 2023

絵本で近頃の収穫は、なんといってもヨシタケシンスケだ。書店で平積みになっている何冊かをめくって、いいなと思った。 昨年末の中学生のビブリオバトルでバトラーの女の子が取り上げて、それに対して大学生のボランティアがヨシタケ作品を好きだといって質…

『さる・るるる』の起爆力

五味太郎の絵本『さる・るるる』(1979)を初めて買ったのは、長男の子育ての時だったような気がする。子どもが飽きたあとも面白いから手元に置いていたのだが、いつの間にか無くなっていた。それで、後になって本屋で見つけたときに自分のために購入してお…

『はてなし世界の入り口』 森毅・木幡寛 (文) タイガー立石(絵) 1985

ビブリオバトルの運営の打ち合わせで、急遽本の紹介のデモンストレーションをすることになった。バトラー全員が未経験者だったので、やはり初めに見本が必要ということになったのだ。運営の初心者で機材等の設置にも不慣れな僕は少しは役に立ちたくて、デモ…

『しずかに! ここはどうぶつのとしょかんです』 ドン・フリーマン 1969

なかがわちひろ訳で2008年に翻訳されているから、原著から40年近くたっての日本語版となる。なるほど、それだけの価値のある絵本だ。 小さな女の子カリーナは、土曜の朝には毎週図書館にでかける。書棚から動物の本を選んでテーブルで読んでいるうちに、考え…

『世界のはじまり』 バッジュ・シャーム/ギータ―・ヴォルフ 2015

年齢を重ねて、知力や根気が衰えてくると、膨大な活字が詰まった本はしだいに役にたたないものになっていくだろう。だからこそ今のうちに読んで後悔がないようにしておきたいという気持ちがある。 一方で、自分が年老いた後でも変わらず楽しめる本を手元に残…

『くるくるかわるねこのひげ』 ビル・シャルメッツ 2014

ビル・シャルメッツ(1925-2005)はアメリカのイラストレーターで、原作は1969年の出版。騒然とした時代を背景としているせいか、はちゃめちゃで楽しい絵本だ。 原題はシンプルに「ねこのひげ The Cat‘s Whiskers」。帯に「待望の復刊!」とあるから調べる…

『もうじきたべられるぼく』 はせがわゆうじ 2022

「どうぞのいす」でも、登場人物たちは、みな動物だった。絵本では、何の断り書きもなく、あたかも当然のように動物たちの視点で物語が始まることが多い。人間の生活が自然と切り離されるようになった現代でも、この傾向は変わらない。 一方、いうまでもない…

『ごろりん ごろん ころろろろ』 香山美子(文)・柿木幸造(絵) 1984

『どうぞのいす』の3年後に描かれた続編。登場人物たちも、みんなが集まる岡も同じだけれども、岡の上の木が切られて切り株になっている。これには何の説明もないけれども、その理由を推理するのは楽しい。 こんどは、ウサギがかなり大きな丸テーブルを作っ…

『どうぞのいす』 香山美子(文)・柿木幸造(絵) 1981

40年前の絵本だが、僕はすでに出版当時大学生だから、この絵本には縁がなかった。自分の子育てのときにも見た記憶はない。ただ、ずいぶん読み継がれてきたようで、昨年発行の手元の本が137刷となっている。 僕が初めて読んだのは一年前だが、なるほどよい…

『げんきなマドレーヌ』 ベーメルマンス 1939

12人の女の子と、クラベル先生とが登場人物のとても楽しい楽しい絵本。さっと描いて動きのある絵もおしゃれでいい。舞台のパリにふさわしい。子ども向けの本には、たくさん子どもたちを描き分けているものがあるが、その走りかもしれない。 マドレーヌが盲…

『おなおしやのミケおばあちゃん』 尾崎玄一郎・尾崎由紀奈 2022

先日の勉強会で吉田さんが次回は駄菓子屋論をやると予告してくれた。うれしいのだが、振り返ると東京の新興住宅街に育った僕には実はちゃんとした駄菓子屋体験がない。学校近くの二軒の小さな文具店は、食べ物やオモチャも扱っていて駄菓子屋風ではあったが…

『ないしょのおともだち』 ビバリー・ドノフリオ(文) バーバラ・マクリントック(絵) 2009

「おんなのこ支持率NO.1 ときめき100%」と帯に大きく宣伝文句が書かれていて、ふつうだったら手に取ろうとは思えない絵本だったが、持ち込みOKの書店カフェの気安さで目を通してみると、どうしてどうして、これがとてもよい本だった。 思わずこの絵本を…

『夜をあるく』 マリー・ドルエアン 2021

・原著は、2018年刊行のフランスの絵本。 闇と光の絵本。しかしその闇はおどろおどろしい暗黒ではなく、やわらかに広がるブルーだ。このブルーの闇が、全編の背景となっていて、そこにわずかに白い光が射し込んでいる。 計画通り深夜に目を覚ました家族4人が…

『しあわせなときの地図』 フラン・ヌニョ(文) スザンナ・セレイ(絵) 2020

戦争の映像で、古い町の建物や橋が破壊される場面があると、人命が失われたかどうかとは別に、その破壊行為自体をたまらなく嫌に思うようになった。 自分が歳を重ねたせいか、その古い建物を作るためにどれだけの人間の地味な仕事の積み重ねが必要だったかが…

『木はいいなあ』 ユードリー(作)・シーモント(絵) 1976

原著は、1956年。木というものの良さを、見開きのページごとの場面で、次々にうたいあげている。絵も名もなき木々のように素朴でシンプル。 「木がたくさんあるのはいいなあ」「たった一本でも木があるのはいいなあ」「いえのそばに大きな木があるといい」 …

『ホンドとファビアン』 ピーター・マッカーティ 2003

図書館で、思いつくままに何冊かの絵本を借りてくる。そのうちの一冊。 とある家で飼われている猫のファビアンと犬のホンドが主人公。二匹は、ふだんはそれぞれお気に入りの、窓枠の上と床の上で眠っている。 ホンドが飼い主に連れられて、海岸で犬のともだ…

『とんでもない』 鈴木のりたけ 2016

ブックオフで比較的きれいな古書を買った。新刊書店で立ち読みした記憶があるのだが、そのときはさほど良いとは思わなかった。理由を考えると表紙の絵が違うことに気づく。 この初版では、表紙と裏表紙が、主人公の住む家を中心に住宅街を少し暗めなトーンで…

『みならい騎士とブーツどろぼう』 クエンティン・ブレイク 1973

翻訳は2013年だから、割と最近のことだ。原著から実に40年後の出版ということになる。年表で確認すると、比較的初期の作品になるが、ストーリーもていねいに作られているし、絵もしっかり描かれていて、完成された作品という気がする。 騎士のサー・トーマス…

『ザカズー』 クエンティン・ブレイク 1998

日本版は、2002年刊行。今は品切れのようで新刊書で手に入らないのが残念。 クエンティン・ブレイクを『みどりの船』で知ってから、図書館で過去の作品をあさっているが、これは出色の出来だ。簡単で印象的なストーリーのなかに、子育てと親子関係の本質を、…

『ふしぎなバイオリン』 クエンティン・ブレイク 1968

定番の「岩波子どもの本」として1976年に翻訳出版されているが、現在では新刊で入手できない。クエンティン・ブレイク自身の絵本としては最初のものらしく、絵もストーリーも少し稚拙な感じがする。 パトリックが原題だが、その名の若者が中古のバイオリンを…

『ゆめどろぼう』 みやざきひろかず 1996

ツタヤ併設のカフェのおかげで、ようやく絵本を読む習慣がついたので、ひさしぶりに図書館で絵本をあさってみた。 図書館の絵本のストックはかなりあるから、初めはどう手をつけていいかわからない。とりあえず新刊書コーナーで真新しい絵本を借りることから…

『ヘリコプターたち』 五味太郎 1997

長男の子育ての時に、五味太郎(1945-)の『さる・るるる』という作品を見つけて気に入っていたが、今手元に残っていない。ナンセンスなコトバ遊びだが、忘れがたい絵本だ。 近ごろの絵本活動で、本屋で五味太郎の他の絵本も手に取ってみるのだが、やはり突…

『ケチャップマン』 鈴木のりたけ 2008

鈴木のりたけ(1975-)は、『ねるじかん』で知った。そのあと、本屋や図書館などでいくつか作品をのぞいてみた。達者な人で、いろいろなパターンの作品を描いていることを知る。ただ人物の顔立ちとかキャラクターの描き方とかで、感覚的になじめないところ…

『すてきな 三にんぐみ』 トミー・アンゲラー 1962

今参加している読書会主宰のニコさんが、ずいぶん前、紹介形式の読書会を企画したことがあって、その時彼女が紹介していた本。 絵本は立ち読みですぐ読めたが、「愛蔵ミニ版」という手のひらサイズを見つけて、気に入ったので今回購入した。絵本は本来大きな…

手作り絵本「かさぼとけさま」あとがき

駅に近い田んぼの一角に、石材を無造作に寄せてコンクリートで固めた場所があって、以前から気になっていました。よくみると、六面に地蔵のようなものが彫られた石の塔身が二つあって、かたわらには大きな丸い石がたてかけてあります。いわゆる六角地蔵とい…

ついに『いやいやえん』を読む

子どもの頃、中川李枝子(1935-)の童話『かえるのエルタ』(1964)が好きだった。物語だけではなく、実妹の大村百合子(1941-)の描いた挿絵の子どもたちが何とも魅力的だった。 『かえるのエルタ』もまだ新刊書として版を重ねているけれども、この二人の…

『よるのねこ』 ダーロフ・イプカー 1988

絵本では、いろいろな生き物が主人公になっている。大人が読む小説の主人公が人間以外であることはまずないだろう。この対比に気づいたとき、それがとても不思議だった。子どもにわかりやすく、親しみをもてるように? しかし、なんで、自分たち以外の種族が…

『きたかぜさま』 星野なおこ(文)・羽尻利門(絵) 2021

タイガー立石の絵本に続いて、月間「こどものとも」の新刊を購入した。福音館のこの雑誌はおそらく昔からあって、この月刊誌から一部の作品が単行本化されるというシステムをばくぜんと知ってはいたが、子育ての時も雑誌まで手にすることはなかった。 絵本の…

クェンティン・ブレイクを深堀する

閉館近くの図書館に駆け込んで、閉架に保存されたクェンティン・ブレイクの7冊の絵本の閲覧をカウンターにお願いする。出してもらった本にさっと目を通すと、全体的に水準は高いが、『みどりの船』のような作風の作品はない。次の3冊は書庫に返すことにした…

クェンティン・ブレイクの絵本をささっと探す

絵本はまるで素人だから、手探りでいい本を求めていかないといけない。『みどりの船』がとてもよかったけれど、書店にはブレイクの絵本はこの一冊しかなかったので、図書館に探しに行く。 検索機で探すと、9冊ある。ただし大半が閉架にあるので、今日はとり…