大井川通信

大井川あたりの事ども

『しあわせなときの地図』 フラン・ヌニョ(文) スザンナ・セレイ(絵) 2020

戦争の映像で、古い町の建物や橋が破壊される場面があると、人命が失われたかどうかとは別に、その破壊行為自体をたまらなく嫌に思うようになった。

自分が歳を重ねたせいか、その古い建物を作るためにどれだけの人間の地味な仕事の積み重ねが必要だったかが想像できるようになったからだ。その建物を舞台にした暮らしや様々な思い出もあっただろう。

戦争で、自分の住む街を離れることを強いられること。その街が、無意味な暴力によって破壊されること。

戦争の中で当たり前に行われてしまうこれらのことが、どれほどの悪であり、本当はあってはならないことであることを、しずかに告発する佳品だ。

主人公の女の子は、戦争で街を避難する前日に、街の地図を広げ、大切な思い出の場所にしるしをつける。そうすることで思いがけず街から特別なメッセージを受け取った彼女は、その地図をもって街を出る。最後ページでは、彼女がもしこの街に戻ることがあっても、街は破壊されてもとの姿ではないことが暗示される。

原著は、2016年にスペインで刊行。この戦争の時代に、心にしみる絵本。