国立市の碁盤の目のような住宅街の街路の一角に、ひっそり由緒ありげな建物がある。庭には大きな木が茂っており、その脇に古い小屋が建っている。旭通りを少し電車側に入ったあたりだろう。僕にもなんとなくなじみのある建物なのだが、それが何なのか思い出せない。
そうだ。両親が結婚式をあげた場所なのだ。当時は旅館をやっていたはずだと思い出す。中に入ると、旅館当時の食器などが飾られている。銀のフォークは柔らかいのか、うっすら人の歯形が残っている。
裏に回ると、立派な山門があって、ここが寺の敷地であることがわかった。寺好きの僕はうれしくなるが、ここにこんな寺があったのかと不思議な気持ちになる。僕が知っているお寺は、もう少し先にあったはずだと思い返す・・・
夢から覚めると、そんな街路も建物もまるで覚えのないものだったと気づいた。そもそも僕の両親は結婚式など挙げていないのだ。
