大井川通信

大井川あたりの事ども

2018-02-01から1ヶ月間の記事一覧

みてみて、おにく、やけた

近くの商業施設の休憩用のスペースに立ち寄ると、テーブルを囲んで、若いお母さんたちが、食事とおしゃべりをしている。窓際のガラスには、大きな観葉植物が置いてあるのだが、二歳か三歳くらいの女の子が二人、鉢の前にちょこんと並んで正座している。鉢の…

ホームとアウェイ

とても優秀な教員の友人がいる。教員仲間でも広く彼の力は知られているが、教師でない僕のような人間が話していても、彼の力が群を抜いているのはわかる。他の先生たちとどこが違うのだろう。ずっとそれを考えていた。 先生は、どちらかというと内弁慶の人が…

大井川歩きで山城に登る

穏やかな日差しに誘われて、久しぶりに大井川歩き。天候やら用事やらで地元を歩くのはだいぶ間があいてしまった。歩くとまちがいなく楽しくいろいろ発見もあるので、これからはできるだけ毎週歩こうと、あらためて思った。 ダムで見慣れぬ大きな水鳥をみつけ…

人は必ず死ぬものだ、と村瀬さんは言った

30年間、介護の仕事で老いとむきあって、わかったことは、と村瀬さんは口を開く。 人は自分の思い通りにならない、ということです。そうして、人は必ず死にます。死ぬ前に人は、時間と空間の見当を失いがちになる。しかし、人間は自分の住み慣れた建物を血…

宅老所よりあい代表の村瀬孝生さんの話を聞く

2年ほど前、特別養護老人ホーム「よりあいの森」をグループで見学して、村瀬孝生さんから説明を受けたことがある。その時は、穏やかでたんたんとしていながら核心を突く語りに強い印象を受けた。著書にサインをいただいたりしたけれども、不勉強の僕は数冊…

『正しい本の読み方』 橋爪大三郎 2017

新刊の時には、手にとって買わなかった本だが、今回必要があって読むことになった。橋爪大三郎の本だから、もちろん間違ったところなどなくて、広い視野から様々に示唆的なことが、わかりやすく書かれている。その内容は一目瞭然だ。 にもかかわらず、この現…

クルマの恐怖

地方都市で、転勤の多い仕事なので、実際に車でしか通勤できない職場に通うことが多い。中央分離帯なんてもののない狭い道を高速で走ると、トラックや自家用車が次々にすれ違っていく。時々、そのどれか一台がわずかにハンドル操作を誤るだけで、正面衝突の…

『クルマを捨ててこそ地方は蘇る』 藤井聡 2017

クルマ社会の問題点を、網羅的に、かんで含めるようにわかりやすく説いた本。視野の広さと分析のバランスの良さは、驚くほどだ。とくに地方都市において、人々のクルマ依存が、郊外化をもたらし、結果的に地域の劣化と人口流出をもたらすメカニズムを、あら…

春一番とガビチョウ

昼間、車道の脇を歩いていたら、ボヤっと赤いものがゆっくり飛んできてズボンに止まる。のぞきこむと、ナナホシテントウだった。手に取ると、思ったよりはるかに小さい。ただ暖かい日差しを受けて、濡れたように光っている。指を立てると先端まで登って飛び…

事ども、のこと

このブログの説明に、大井川あたりの事ども、と書いている。大井川と言っても、あの大井川ではなく、ネットの検索でも出てこないような、小さな河川の支流のことだ。そのあたりの事ども。しかし、事など、でいいところ、なぜこんな気取った言い回しをしてし…

小ネタ集(賽銭、炭鉱、ドット)

知り合いに地元の小さな神社の総代をしている人がいる。富岡八幡の事件以来、賽銭が少なくなったと嘆いていた。僕も、あの事件で神社の莫大な利益をめぐる神主一家の骨肉の争いを知ってから、初詣のわずかな賽銭すら出す気持ちを無くしてしまった。そんなへ…

『逆転のボランティア』 工藤良 2004

昨年、著者が仲間と主催するイベントに出席した。非行や犯罪に走る少年たちの立ち直りの支援を、いろいろな立場の人間が取り組んでいこうという集まりのなかでの、著者の朴訥として熱意のこもった語りが印象に残った。 本書は、自分の生い立ちから、暴走族の…

戦後抒情詩の秀作-清水昶『夏のほとりで』

明けるのか明けぬのか/この宵闇に/だれがいったいわたしを起こした/やさしくうねる髪を夢に垂らし/ひきしまる肢体まぶしく/胎児より無心に眠っている恋人よ/ここは暗い母胎なのかもしれぬ/そんな懐かしい街の腹部で/どれほど刻(とき)がたったのか…

池のほとりで(事件の現場4)

たまに散歩したり、駐車場でつかったりする小さな公園で、酔った大学生が池に落ちて亡くなったという。先日も学生が罰ゲームか何かで防波堤から海に飛び込んで命を落としたという報道を目にしたが、こちらはよく整備された浅い池だ。大学4年生というから、…

『稼ぐまちが地方を変える』 木下斉 2015

昨年から、地元のまちづくり関係のワークショップや話し合いの場に出るようにしている。そこで驚いたのが、若い不動産オーナーが、コミュニティやまちづくりの構想と実際の経営とを両立させていることだった。あるいは、古い空き家の再生や活用を、新たなマ…

『第七官界彷徨』 尾崎翠 1933

昨年初めて読んで、とても不思議な印象だった。その印象にひかれて、すこし丁寧に再読すると、不思議さの背後に大きな独自性と魅力がひかえているのに気づいた。 まず、その文体。「よほど遠い過去のこと、秋から冬にかけての短い期間を、私は、変な家庭の一…

給水塔の話

年末、海に近い町の小さな本屋さんを夫婦で訪ねた。古い時計店を改装したお店で、前の半分はカフェとなっている。妻が盛んにカフェの方の店主に話しかけて、コーヒーの注文をした。あとで聞くと、イケメンだと興奮している。薬を変えて体調が戻り、そんな元…

ある訃報

石牟礼道子さんが亡くなった。水俣病を告発し支援し続けた作家として、地元の新聞では一面トップと社会面で特大の扱いをしている。僕は『苦海浄土』すら読んでいないし、高群逸子を扱ったシンポジウムで、上野千鶴子らと登壇している姿を見たことがあるくら…

至高の抒情詩-三好達治『いしのうへ』

あわれ花びらながれ/をみなごに花びらながれ/をみなごしめやかに語らひあゆみ/うららかの足音空にながれ/をりふしに瞳をあげて/翳りなきみ寺の春をすぎゆくなり/み寺の甍みどりにうるほひ/庇々に/風鐸のすがたしづかなれれば/ひとりなる/わが身の…

本の話

先日テレビをながめていたら、ある書店員の日常が映されていた。本屋大賞の運営に関わるようなカリスマ店員のようだ。しかし彼女の自室には、小さな本棚しかなく、読んだ順番に乱雑に並べているだけだった。しかも本の山が雪崩を起こしたら、その部分をゴミ…

芥川と凡兆

ミソサザイとの出会いから、野沢凡兆という俳人を思い出した。芭蕉の一門人である彼を、どうして知るようになったのか。すると、芥川龍之介のことに思い当った。大学の前半くらいまでは、僕は古風な文学少年だったので、地元の図書館で芥川や泉鏡花の全集な…

闖入者ミソサザイ

芭蕉の門人に野沢凡兆(1640-1714)という人がいる。才能豊かだったが、師を離れ不幸な晩年を送ったらしい。学生の頃、凡兆が気になって、大学図書館から戦前出版された全句集を借り出したことがある。その時全頁をコピーして紐で閉じたものが手元に残って…

「積極奇異」でいこう

僕は、人間の問題の大枠は、岸田秀の唯幻論で理解できると固く信じているので、「発達障害」についても、こんな風に思ってきた。 人間は本能の壊れた動物である。壊れた本能の代わりに、擬似本能として文化や自我をでっち上げて、なんとか種の存続を図ってき…

ゴーゴリ『死せる魂』を読む(その2)

第1部は、完成されて1842年に出版されたものだ。一方、第2部は、1852年の死の直前にゴーゴリが自ら原稿を焼却してしまったため、残った草稿やノートから復元したもので、分量も1部の半分程度である。未完だし、欠落や粗略も目立つ。しかし、通読して2部…

ゴーゴリ『死せる魂』を読む

子どもの頃から、ニコライ・ゴーゴリ(1809-1852)が好きだった。なんで好きになったのか、もう覚えていない。隣のいとこの家にあった少年少女世界文学全集で『外套』を読んだためかもしれない。唯一の好きな外国文学の作家で、それでロシア文学の勉強をし…

『「助けて」と言おう』 奥田知志 2012

著者はホームレス支援を長く続けている牧師。少し前なら、むしろ学生の政治団体SEALsの奥田愛基の父親として、知られていたのかもしれない。地元では昔から有名な人だから、軽い気持ちで、シンポジウムでの講演を聞きに出かけてみた。 最近になって、少し視…

記事が消えた

夜中、ようやく一本の文章を仕上げる。漠然としたアイデアを、なんとかうまく文章に落とし込めた気がする。満足して保存のボタンを押したのだが、家のWi-Fiの調子が悪くて、サーバーとつながらない、と表示がでた。ジタバタしたのだが、結局、せっかくの文章…

ある演出家の蹉跌

昨年末、ある演出家のセクハラの話が、ネットニュースで大きく取り上げられた。ネット上でのセクハラ告発が評判になっているさなか、ハリウッドの大物プロデューサーの事件の日本版みたいな扱いも受けたようだ。 演出家市原幹也さんは、僕が6年前、地域密着…