大井川通信

大井川あたりの事ども

『メメンとモリ』 ヨシタケシンスケ 2023

絵本で近頃の収穫は、なんといってもヨシタケシンスケだ。書店で平積みになっている何冊かをめくって、いいなと思った。

昨年末の中学生のビブリオバトルでバトラーの女の子が取り上げて、それに対して大学生のボランティアがヨシタケ作品を好きだといって質問したので、今の若い世代で広く読まれていることを知った。

書店の無料配布のチラシを見ると、全国の小学生のアンケートで『リンゴかもしれない』が一位になったという。僕も、彼の「発想絵本」シリーズを何冊か読んだが、やはりこの『リンゴ』が一番面白いと思っていた。いつか買って手元に置いておきたいと思うくらいに。

ヨシタケシンスケの良さは、背景にある思索力、発想力の深さと多様さだ。哲学者のように物事を根底から考えているのがわかるが、それを概念によってではなく、日常の風景や出来事を通じて粘り強く考え続けているのがわかる。あれこれ思いめぐらすのが、そもそも好きな人なのだろう。それが絵本の素材につながっている。

さらに、確かな画力とキャラクターの素朴なデザインがいい。今風でありつつ、どこか昔からの子どもの絵本の挿絵の良さを引き継いでいるような気がする。

そして根底には、人や自分への、世界まるごとに対するやさしさがある。そのやさしさが一本の軸になって、絵本の世界を支えているところがある。ユーモアを交えて描かれる世界の多様性を混乱のほうにではなく、安定へと抱きしめる「神」がどこかにいる感じなのだ。作者の感受性のなかに自然とそれは宿っているのだろう。

だから、ヨシタケシンスケの絵本が多くの子どもたちと大人たちに受け入れられる世の中は、捨てたもんじゃないなと思う。彼の絵本を読むことができる今の子どもたちは幸せだなとも思う。作者に対する嫉妬すら感じてしまうところだが、それ以上に若い読者がうらやましい。昔は、こんな絵本はなかった。

記念に買ったのは、『リンゴかもしれない』ではなく『メメンとモリ』。生きることの根底を問う大人の経本。しかし相変わらず肩の力は抜けていて、シンプルな絵柄もとてもいい。