大井川通信

大井川あたりの事ども

『とんでもない』 鈴木のりたけ 2016

ブックオフで比較的きれいな古書を買った。新刊書店で立ち読みした記憶があるのだが、そのときはさほど良いとは思わなかった。理由を考えると表紙の絵が違うことに気づく。

この初版では、表紙と裏表紙が、主人公の住む家を中心に住宅街を少し暗めなトーンで描いた絵になっている。一方現在の版では、キャラクター化したライオンの絵がクローズアップされている。絵柄も明るいし、子どもにはアピールするだろう。ただ、僕は、著者の描く人物やキャラクターの表情が生理的に受け付けないことが多い。

ストーリーは、住宅街を舞台に、いろんな動物のキャラクターが次々に登場して「とんでもない、僕らもそんなに楽じゃないよ」と主張する。一本筋の通ったリズムがあって、子どもは楽しいだろう。

街という舞台と動物キャラとが拮抗しているのだが、表紙と裏表紙をどちらがとるかで、まるでオセロゲームのように全体の印象が一変してしまうということなのか。街の風景でサンドされた初版が僕には気に入ったのだ。

この絵本では、はじめに朝の街の風景の俯瞰が見開きで描かれて、最後の頁で同じ構図の夜の街の俯瞰が描かれる。この対比の手法は、『ねるじかん』などでも使われていた。街がそのまま異世界となるような昼夜の変貌の感覚をとらえていて、素敵だと思う。

 

※あらためて、書店で現在の新刊を手に取ると、紙のカバーの絵がライオンで、本体の表紙の絵は街の風景となっている。初版以降表紙を変えたのではなくて、僕が中古で買った本が紙カバーのないものだったというのが、どうやら真相のようだ。