大井川通信

大井川あたりの事ども

ついに『いやいやえん』を読む

子どもの頃、中川李枝子(1935-)の童話『かえるのエルタ』(1964)が好きだった。物語だけではなく、実妹の大村百合子(1941-)の描いた挿絵の子どもたちが何とも魅力的だった。

『かえるのエルタ』もまだ新刊書として版を重ねているけれども、この二人のコンビで有名なのは、絵本の『ぐりとぐら』(1967)、そして童話の『いやいやえん』(1962)だろう。

今回、絵本のプロになろうという企画の中で、男の子とクマが向き合った絵の描かれたなじみのある真赤な表紙の『いやいやえん』を初めて手にとってみた。読み始めて見ると、やはり記憶通りまったくの初読だった。

「ちゅーりっぷほいくえん」のばらぐみのしげるを主人公とした園児たちの物語で、意外なことに「いやいやえん」は七個の連作の最後の一つの舞台であるにすぎない。なんでもいやだいやだと駄々をこねるしげるは、ある時お仕置きとして、子どもたちのわがままがそのまま認められる「いやいやえん」に連れていかれる。そこがしげるには居心地が良くなくて、結局もとの保育園がいいと気づくという話なのだが、連作の中では中途半端でちょっとわかりにくい話だ。

積み木で作った船で、園児たちがクジラ取りに出かけ、クジラをつれてかえってくるという「くじらとり」のごく自然な展開がいい。「やまのこぐちゃん」では、子熊が転入の園児として自然に迎えられるし、「おおかみ」では、はらっぱに普通にいる人食いオオカミを園児たちが退治する。「山のぼり」で出かける五つの山はそれぞれ違った色と別々の果物の木をもっている。

園児たちの日常とは別に、非日常の冒険の世界があるのではなくて、子どもたちと同じ平面に動物たちや不思議な自然がさりげなく存在している感じが魅力的なのだ。二年後の『かえるのエルタ』ではその部分がもっと彩り豊かに描かれることになる。

 

ooigawa1212.hatenablog.com