大井川通信

大井川あたりの事ども

『はてなし世界の入り口』 森毅・木幡寛 (文) タイガー立石(絵) 1985

ビブリオバトルの運営の打ち合わせで、急遽本の紹介のデモンストレーションをすることになった。バトラー全員が未経験者だったので、やはり初めに見本が必要ということになったのだ。運営の初心者で機材等の設置にも不慣れな僕は少しは役に立ちたくて、デモ役をかってでることにした。

そのとき図書館の棚で気になったのがこの本だった。好きな画家のタイガー立石の挿絵だが、この本は初めて知った。有名な数学者と教育者との共著で、無限の概念についてさまざまな角度から解説した絵本である。

当日のバトラーの中には、地元の山についての本を紹介にする人がいたので、タイガー立石を説明するために、著名な大作「香春岳対サント・ビクトワール山」の話をすることにした。

香春岳は立石の故郷田川を象徴する山で、石灰岩を取るために大きく削られた異様な姿で有名だ。セザンヌの連作で有名なフランスのサント・ビクトワールと対決させるのは、彼一流のパロディだが、ネットで念のために調べてみて、サント・ビクトワール山もまた石灰岩の山であることを、初めて知った。そんな重要な共通点のことをうかつにも知らなかったのだ。

絵本は見開きで、無限にまつわるエピソードを紹介している。正直なところ、こうしたテーマの限定された挿絵は、画家本来の奔放さが抑えられてそれほど面白くない。

デモ発表で紹介するのは、インドの伝説にまつわるページにした。天女たちが100年に一度下界に水浴びに降りてきて、羽衣を岩に掛ける。そのわずかの衣擦れで岩がすり減って、やがて岩がなくなってしまうような気が遠くなるほど長い時間があるというエピソードだ。

タイガー立石を紹介しただけのふにゃふにゃな発表になってしまったが、デモンストレーションは稚拙な出来の方が後の人がやりやすいだろう。なにより5分の発表の時間の感覚を知ってもらうことが大切だ。

僕のデモが少しは役に立ってくれたのか、みなさん時間をしっかり使いきった初心者とは思えない発表をしてくれたのはうれしかった。