大井川通信

大井川あたりの事ども

『よるのねこ』 ダーロフ・イプカー 1988

絵本では、いろいろな生き物が主人公になっている。大人が読む小説の主人公が人間以外であることはまずないだろう。この対比に気づいたとき、それがとても不思議だった。子どもにわかりやすく、親しみをもてるように? しかし、なんで、自分たち以外の種族が主役であることが、「わかりやすい」のだろうか。

家で猫を飼うようになって、いろいろなことがあらためて理解できるようになった。猫も僕たちも対等である。いっしょに暮らすと、ふつうにこういう感覚が芽生えてくる。家で飼う猫が家族になるのが特別なことでないのは、もともとこの対等性の感覚があるからだ。

子どもたちにとって、様々な未知のルールに従っていて、時に自分にあれこれと介入してくる面倒くさい人間よりも、見た目に特徴があって無垢な動物たちの方が、自然に感情移入しやすいのかもしれない。絵本によって、生き物たちと対等の世界に遊び、この感覚を十分に味わっておくことは、のちのちのために大切なことであるように思える。しかし、このことは大人たちにはあまり自覚されていないのではないか。

この絵本の主人公は猫。物語はとくになくて、猫にとっては当たり前の一晩の冒険を描いたもの。

ただ、人間にとって真っ暗にしかみえない夜の世界が猫にとっては昼間のように見えることがわかる工夫がある。まず、夜の影絵の世界が見開きで描かれると、次の頁では、まったく同じ構図がカラフルに細部まで描かれる。これが繰り返されることで、猫がどんな風に夜の世界を楽しんでいるのか知ることができる。

猫と僕たちは対等だけれども、僕たちとは違ったように世界を体験しているに違いない。子どもたちも薄々気づいているにちがいないそんな事実を、鮮やかに教えてくれる素敵な絵本だ。原作は1969年。