近ごろ絵本をもっと読もうと思っている。残された時間の中で、何をやりたいのか、何ができるのか、を考えた場合に、絵本を読むことの優先順位が高くなることに気づいたのだ。
そこで、たまたま手にとった絵本を紹介する。リアルな絵柄で、特に主人公の男の子の顔つきなど、ぱっと見た感じではあまり好みではなかった。しかし、読み進めると、夢を扱った絵本としてとても優れた作品だということに気づいた。
若い母親が、添い寝して子どもを寝かしつけようとする。しかしお母さんの方が先に寝ぼけてしまい、男の子は目がさえてしまう。寝室のドアは変形し、部屋がゆがんで、窓の外では大きな魚のバスが空中を走っている。
やがて、子どもの心は外のまちに飛び出して、赤いポストが歩き回って郵便を届けたり、怪獣が迷子の我が子を探したりするのを目撃する。各ページには、子どもによる驚きの事態の報告と、それにまどろみながらいい加減に答える母親との会話がのっており、これが実際には寝室で見ている夢の情景であることを暗示している。
圧巻なのは、見開きで描かれた、夢の舞台である奇妙な夜の街の詳細な全体図だ。その数ページあとには、こんどは夜が明けたリアルな朝の街の見晴らしが、全く同じ構図で描かれている。
この二枚の絵を見比べると、夢というものが現実の街を舞台として、いかにそこに奇妙な変形を加えているのかがよくわかる。作者自身が夢の魅力をどう認識しているかがわかって、つよく共感してしまうところだ。
ラストの頁では、夢の世界で歩き回ったポストが、実際の世界でも行方不明になっていることをさりげなく示して、洒落たオチになっている。