大井川通信

大井川あたりの事ども

諸星大二郎『西遊妖猿伝』を読む

年末年始休みに入る前に立てた目標の中で、唯一実現できたものが、諸星版の西遊記を読み切るというものだった。長編小説の名作を、とも思ったが、僕にはそれより諸星だろう。寝込んだ後、多少気分が良くなってもできることがない。その間、がつがつと読み進めた。活字なら追えなかったと思う。

出版当時買って読んでいた双葉社版「大唐編」9巻と、そのあと積読していた講談社版7巻「西域編」の手持ちの本を読めばいいのかと思っていたが、これだと「大唐編」の後半が抜けているのに気づき、急きょネットで潮出版社版16巻セットを注文し、後半の7巻を読み足した。

僕は、昔から諸星では、不思議な手触りの短編が好きだったから、原作のある長編を敬遠していたのかもしれない。双葉社版の最後のあたりのギャグっぽいところについていけなかった記憶もある。

しかし、今回、現在出版されているところまで通読して、やはり面白く諸星の代表作であることに納得した。原作は、諸星が比類のない想像力を発動するためのきっかけにしか過ぎないのだろう。

神仏の世界と地上の帝国、恨みを持って死んだ民衆という三者がダイナミックにおりなす世界が舞台となる。そこに登場するもろもろのキャラクター、異物たちが実に魅力的だ。物語の核となるのは、孫悟空の本体たる聖天大聖「無支奇」の謎めいた存在とその圧倒的な造形だろう。諸星作品に欠かせない魅力的な女性キャラも満載である。

本当に久しぶりに、物語を読み、漫画を読むことの喜びを体験できた気がする。寝正月もよしとするべきか。