大井川通信

大井川あたりの事ども

龍岩寺奥院礼堂を参拝する

4月の初旬に引き続いて、国東半島で一泊する。僕がはじめてこの地を訪れたのは、社会人になったばかりの頃で、その時参拝した泉福寺や龍岩寺のことは強い印象として残っている。中年過ぎてから、国東と縁が深くなったのは、妻の彫金の先生のアトリエがあるためなのだが、妻の送り迎えを頼まれても、国東だからまったく苦にならない。国東半島は、夫婦のいわば「共通の趣味」のようなもので二人の大切なカスガイと言えるかもしれない。

前回は国東市に宿泊して、翌日は臼杵に回り収穫が大きかった。ただ運転が相当大変だったので、今度は豊前高田市に泊まって、帰り道にある宇佐市を観ることにした。

宇佐八幡宮を久しぶりにゆっくり参拝して、定番の訪問先になるが龍岩寺にお参りに行くことにする。龍岩寺は、少なくとも5回目の訪問になるだろう。妻の同行も三回目になる。これは、妻が木彫の大きな本尊を気に入って、お参りを歓迎しているためだ。この地方の中でも、カスガイ中のカスガイといった霊場だ。

山中の絶壁の岩場のくぼみに建てられた懸け造りの代表作といったら、やはり島根県の国宝三仏寺投入堂だろう。僕も30歳の頃、投入堂のある険しい山に登り、間近に見ている。その印象でいうと、龍岩寺礼堂の方は、登山というほどの上りでもないし、深い傾斜地ではあっても断崖絶壁にあるわけでもない。建物や柱の作りも投入堂の方が変化に富んでいる。とても本家には勝てそうもないが、好きな建物だった。

ところが今回訪問してみると、雨の後ということもあったがかなり足場が悪くて登りづらく、崖のくぼみにはめられた礼堂の姿も、下から見上げると浮遊感があって見事だ。比較する投入堂の記憶が薄まったことと、自分の体力が落ちて若い時より難所に思えるようになったたことの二点による印象の変化だろう。

そして何より、礼堂の規模からは想像もつかない木彫の3体の仏像の充実ぶりである。臼杵石仏を観たばかりだからなおさら思うが、この岩穴いっぱいに鎮座する仏像のイメージは摩崖仏そのものだ。少なくとも石仏を意識して造形したものであることは間違いない。阿弥陀如来を中央に、左右に薬師如来不動明王を配しているが、大きさや彫り方で軽重をつけるようなこざかしい真似をせずに、まったく同じ大きさで並んでいるのも豪放でよい。そして、臼杵石仏を彷彿とさせるような朴訥だけれども美しい尊顔。妻はとくに薬師如来がお気に入りで、昔亡くなった従兄に似ているという。

夫婦で、これがおそらく最後の参拝になるだろうからと仏様にお別れをする。大げさなようだが、もうそういう年齢だ。

心配だったのは、入口で管理している寺院の建物がボロボロで内部にごみがたまっていたことだ。縁側には10匹以上の猫がいて、妊娠中のものまでいる。飼い猫の管理まで手が回らずに「多頭崩壊」を起こしかけているのではないか。戻ってから、宇佐市文化財担当者に電話すると、実情をご存じのようだった。多頭崩壊をサポートするボランティアの話などをする。こうした連絡の事実が行政を動かす後ろ盾になることもあるだろうと自分で納得する。

※『日本建築みどころ事典』(中川武編  1990)に詳細な解説がある。

 

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