大井川通信

大井川あたりの事ども

球磨郡の仏堂を訪ねる

人吉に入って、まず青井阿蘇神社に参拝する。神社建築にはあまり関心はないのだが、この茅葺の国宝の社殿は別格だった。楼門は三手先組物の本格的建築、拝殿は舟肘木の素朴な建物という対照が面白く、どちらも急こう配のもっさりとした茅葺屋根に民家のような暖かみが感じられていい。本殿のみは銅板葺きだが、社殿全体は独特の彩色と文様で統一されている。棟が高く急こう配の茅葺屋根というのは人吉地方の古建築の共通する特色のようだ。

盆地の奥に入って多良木町青蓮寺(しょうれんじ)阿弥陀堂を訪ねる。建物よし、保存よし、ロケーションよしの何拍子もそろった名建築で、ほれぼれと見とれてしまう。古建築好きには至福の時間だ。五間四面で約10m四方と、この地方では大柄な仏殿で、何より棟が高く分厚い茅葺屋根には迫力がある。出組と二軒の垂木がしっかりと大きな屋根を支えて、端正にして堂々たる外観だ。

たまたま若いお坊さんが堂内の掃除をしていたので、頼んで拝観させてもらう。四天柱の内側が内陣で格子戸ごしに阿弥陀三尊を拝むことができる。周囲を取り囲んだ外陣は、念仏を唱えながら回ることができる形式だ。外陣は化粧屋根裏で、柱をつなぐくねっとした虹梁の形が面白い。室町中期の1443年建立もうなずける。

すぐ近くの水上村にある生善院(しょうぜんいん)観音堂は、猫寺のエピソードは面白いが、境内が狭く木々に閉ざされて環境が今一つだし、茅葺もほつれがある。近年重文指定された江戸建築(1625年)で、彩色や文様なども復元されており細部など建築学的には貴重なものがあるだろうが、外観の魅力は乏しかった。

隣町の湯前町城泉寺阿弥陀堂は、県内最古の鎌倉初期の建築で、風雪に耐えた木割(柱)も太く、舟肘木や長押等の部材もしっかりしていて、7m四方の規模ながら力強い。例えば、平安末期の国宝富貴寺大堂に近い雰囲気がある。みな同じ地方のほぼ同じ形式の仏堂ながら時代による差が歴然と感じられるのが面白い。廃寺のお堂だから周囲が淋しく、茅葺が古びているのがやや残念。

この阿弥陀堂に程近く、八勝寺阿弥陀堂を見つけた時は、最近重文指定された小堂ということで期待していないだけに驚いた。広々とした街道沿いにすっと建つロケーションが良く、近年茅葺に復元された姿が美しい。室町後期(15世紀後半)の建立であり、か細い印象なのは仕方ないか。内部の禅宗厨子をのぞくこともできた。

以上は国指定の文化財だが、最後にあさぎり町にある県の重文指定の宮原観音堂を訪ねてみた。信仰を集めているせいか、管理棟や駐車場もあって保存状態も良く、川沿いの高台に建つ姿も見栄えがする。正面3間側面4間(6m×8m)の妻入りの建物で、奥行きがあって意外と大きい。室町時代の建立とのことで、国の重文指定の建物にそん色ないように思えた。