大井川通信

大井川あたりの事ども

『日本はどこで間違えたのか』 藤山浩 2020

著者は1959年生まれ。ほぼ同世代だ。1960年代から10年ごとに日本社会の進行をコンパクトにまとめて、各時代の特色と問題点を明確に指摘する。著者の個人史も交えての論述は、僕自身の生きた同時代の解説でもあるから、興味深く、ありがたかった。

その分析の視角は、高度成長以降の「大規模・集中・グローバル」への傾倒に対して、「小規模・分散・ローカル」の軸を取り戻すというものだ。コロナ禍の現状は、前者の文明の設計原理の行き詰まりを意味する。

著者は、「地元」から社会を社会を再構築するビジョンを大胆に提示する。これは地域社会の基本設計を「三層の循環圏」として提案し、その転換に向けて30年の工程表を示すという具体的なものだ。中山間地域での実践、研究を足場にすえた議論なだけに、単なる絵空事とは感じさせない説得力がある。

地元の生活圏で、ただ歩き、観察し、話し、空想しているだけの僕にとっても、自分のささやかな営みの後ろ盾をえたようにも思えたし、今後に向けてのあるべき理念を得たような気がした。一方、この社会に長い間どっぷりつかって生きてきた体感からは、理念に基づくドラスティックな改革を主体的に遂行する力が我々にあるとは思えないのも正直なところだ。

たしかに日本社会は今まで大きな変革を経験したきたが、それらは外からの強制をきっかけとして、欲望の自然な拡大を原理として成し遂げてきたものに思えるからだ。

とはいえ、終章での著者の同世代への呼びかけは、胸にこたえた。君たちは、比較的楽に就職して、楽に仕事をし暮らしをしてきたのではないのか。この社会の現状に対しては、2010年代に責任ある立場にたっていた君たちが、どの世代よりも直接の責任があるのではないか。老いや衰えや疲労は仕方ないにしても、自分の志と才能と努力に軸足を置いて事をなすには、まだ十分な時間が残っているのではないか。

この叱咤激励の声を聞けただけでも、この本に出会えてよかったと思う。