大井川通信

大井川あたりの事ども

『須恵村-日本の村-』 ジョン・F・エンブリー 1939

自分にとって、モノ・ヒト・コトバの三つの軸を束ねたものが「中心軸」となるだろうということを書いた。そのうえで、ここ5年以上取り組んでいる「大井川歩き」の実践が、その中心軸を生活の場において探っていくような試みだったことに気づいた。

ここでは、中心軸の三要素は、自然・ムラ・身体へと置き換えられる。あるいは遡られる。圧縮して書くとやたらに抽象的な整理に思われるだろうが、僕にとってはとても具体的で自明なイメージだ。

これからコミュニティや社会など人とどうつながっていくかを考える上で、そこに二重写しのようにあぶりだされる「ムラ」の姿をとらえる必要があるということ。

本書は、戦前に熊本の農村に一年間滞在して調査したアメリカ人社会人類学者による研究書。今年になって新しく全訳が出版されたので、ざっと目を通してみた。

日本人によって書かれた民俗学等の本は、同時代人にとっての共通了解事項は省かれる傾向がある。かつての伝統的な在り方が調査対象となる。しかし、著者は異文化からの目で、当時のムラの在り方を全体的に、その変化も含めた現状そのままを整理・報告しようとしている。

80年以上前の農村社会をもはや「外国人」の目で見るしかない僕にとって、この客観的な視線は心地いいし、わかりやすい。当時の姿は須恵村とさほど変わることはなかったはずの大井に残存する「ムラ」の要素を理解する上で、手がかりになる知識がたくさん書かれている。

今後、こうしたムラ理解のため本を読み進めていくつもりなので、その過程で本書の特徴や利点がいっそう明らかになるだろう。