大井川通信

大井川あたりの事ども

ぬいぐるみが手放せない

休日の朝、コメダ珈琲で本を読んでいると、斜め前の席に、小太りの30代くらいの女性客が座った。透明なゴミ袋みたいなビニールに包んだ大きな手荷物をもっている。なんだろう。気になってみると、大きなぬいぐるみだった。

従姉妹のアサコは、幼児の頃、小さなトラのぬいぐるみが手放せなかった。ある若い演出家は、アフタートークの時もぬいぐるみを手に持ってくる。ライナスだっていつも毛布を。

だから、大きなぬいぐるみをもって、コヒー店でモーニングを注文する女性がいても、少しもおかしくはない。その人は、店を出ると、ぬいぐるみをかかえて駐車場の車に戻っていった。単なる荷物だったら、車に置いておくだろう。ビニールは雨に濡らさない工夫かもしれない。

僕は、この朝、読めもしない本を10冊ばかりカバンに詰め込んで、コメダ珈琲に来ていた。そのうち実際に開いたのは、2冊だけだ。他の人からすれば全く無駄で理解できない手荷物を身近において、安心したり満足したりしているという点では、ぬいぐるみの女性と僕は少しもかわらないだろう。

そんな密かな僕のエールなど、彼女は気づきもしなかったと思うけど。