大井川通信

大井川あたりの事ども

銀杏のホウキ

高村光太郎の詩「冬が来た」の中に、銀杏の木も箒になった、という表現がある。読書会で読んでいて、これがよくわからないという感想があった。冬になって、銀杏の黄葉が落ちつくして、残った枝がまるで竹ぼうきのように見えるということだろう。

僕には抵抗のない比喩なのだが、思い返してみると、この詩を中学校の教科書で読んでいたためだと思う。言葉の意味にうるさい渡辺ゲンゾウ先生の国語の授業だったから、さぞかしていねいにこの比喩の意味を頭にたたきこまれたにちがいない。

大井に近い里山のふもとに、一本の銀杏の木がある。大きな木ではないのだが、ため池の縁の斜面に立っているから、遠くからでもよく目立つのだ。周囲の紅葉から少し遅れて、全部の葉が黄色に染まると、常緑樹の暗い緑から浮き上がって本当にきれいだ。毎年、それを楽しんで見ていたのだが、今年は新しい発見があった。

12月に入って、葉が落ちつくすと、幹と枝は、ぼおっとまるいホウキの先のようにかすんで見える。しかし落ちた黄葉が根もとの斜面をそめて、黄色いテーブルクロスをかけたように鮮やかなのだ。

黄葉は木を美しく飾ったあと、今度は地面を敷きつめられる。その両方を時間差で楽しむことができるロケーションは、めったにないだろう。大井川歩きの楽しみがまた一つ増えた。