大井川通信

大井川あたりの事ども

隣家におこられる

僕の家の玄関先に問題のケヤキがある。この住宅団地で建築条件付きで敷地を買ったときに、住宅街を統一するために外構をそろえて、玄関先に同じシンボルツリーを植えるというのが決まっていた。

その時かかわった業者はすでに撤退したり倒産したりしている。どのみちたいして考えやプランのある業者でなかったのだろう。狭い戸建ての住宅街にケヤキを植えるとは。

ケヤキはすぐに大きくなる。結局この住宅街でケヤキを残しているのは、我が家だけになった。四つ角の隅にケヤキがあって、向かいが公園だから他家の邪魔にならないのだ。しかし根が悪さをして郵便ポストを傾けたり、レンガの敷石を持ち上げたりしたので、根を除去する工事をせざるをえなかった。

近所に大きな木がないためか、カミキリムシなどの害虫があつまり、幹の内部が喰われて枯れかけた枝もある。台風で倒れたら大変だから、できるだけ小さく切ってもらおう、そのために枯れたらそれも仕方ない、と考えていた矢先だった。

ケヤキは今の時期、すべての葉を落とすので、枯れ葉が大量に出る。僕は無精者で、何とかしないといけないと思いながら、家にいる妻に任せているだけだった。割れ鍋に綴じ蓋の彼女も、そんなに几帳面な性格ではない。

彼女が今日、隣家の奥さんに顔を合わせたとき、軽い気持ちで枯れ葉のことをわびたそうだ。すると、そうとうな権幕で怒られたのだという。「掃いても掃いても落ちてきて、うんざりする」と。

これは我が家が完全に悪い。隣家はケヤキとは反対側にあるから、直接落ち葉が降るわけではない。我が家の玄関まわりや長いフェンスの前の路上の落ち葉をこまめに掃除しておけば、隣家の前の道に枯れ葉が押し寄せることはないのだ。ただ、傾斜地のゆるい坂道だから、風が吹き下ろすとたまった枯れ葉は遠くまで吹き飛ばされてしまう。

僕は早朝、まだ近所の人たちが起き出す前に、ほうきとちり取りで家の前の坂道の掃除をした。とくに隣家の前は念入りに。15分ばかりで道はすっかりきれいになった。朝から心身も爽快になった。

ケヤキの枯れ葉が落ちつくすまでは、この毎朝の掃除を続けようと思う。大井川歩きで、歩いて行ける範囲に責任をもつと標ぼうしておきながら、自宅の目の前の責任さえ果たしていなかったことに恥じ入りつつ。