大井川通信

大井川あたりの事ども

ケヤキのシンボルツリー

『町を住みこなす』を読んで、住宅街の中に変化が生じ多様な要素が交じることが、そこでの暮らしを豊かにして、住宅街の寿命を伸ばしていくことを知った。均質な住宅街の高齢化という問題点を知りながら、今までそれの処方箋については考えたことがなかったので、目からウロコが落ちるような気がした。

では、僕が今住んでいる200戸ばかりの住宅街の中に多様性は生じているのか。

20数年前に開発に着手して、まず僕たちが住む区画が整備され、段階的に開発・販売されて現在の形になるまで10年もかからなかったと思う。初めからアパートが3棟建てられていたのは、当時は好ましいとは思っていなかったが、多様な住みこなしの観点からは必要な要素と評価できる。しかし、この20年で一部の世帯で住み替えが生じている以外は、住宅街のなかにハード面であらたな要素は付け加わっていない。

初めに開発された区画を受け持った住宅会社は、各戸にシンボルツリーを植える提案をした。しかしそれが大木になるケヤキだったために、多くの家で切られてしまった。角地で交差点に面して枝を張り出していて隣家のじゃまにならない我が家のケヤキだけが唯一の生き残りである。

先日大雨があったとき、学生風の若い男性が、ケヤキの下に自転車をとめて雨宿りしている姿を見かけた。これなどは、大げさにいえば、時間の経過による利便性の向上の事例なのかもしれない。

しかし、この近辺の庭木で唯一大きな木であるケヤキにはいろいろな虫がついて、樹勢は衰えている。歩く人に日陰や雨宿りの場所を提供できるのも、そんなには長くない気がする。