大井川通信

大井川あたりの事ども

伊藤伝右衛門邸を見学する

職場の近くにある「炭鉱王」伊藤伝右衛門邸を見学する。以前、二回ほど見ていたが、久しぶりである。NHKの朝ドラで妻の柳原白蓮が取り上げられた時の賑わいは、もはやないようだ。酷暑の平日ということもあり、僕が広い邸内を見て回る間、他に来場者はなかった。

深い軒と縁側、広い座敷と低い天井に挟まれた室内は、庭から裏庭に吹き抜ける風のために、意外に涼しい。豪華な日本家屋だけれども、時代がたっているためか、どこかゆがみや狂いが感じられる。白蓮の部屋だった二階にあがる階段は暗く、狭くて急だ。建具もガタガタして不安定な印象を受ける。

それらが、なんとなく心地よく、なじみがある。

それで思い出したのだが、自分の実家の様子とどこか共通点あがるのだ。もちろん一方は、有数の資産家の贅を尽くした大豪邸。一方は、敷地の隅に素人の手伝いで建てた家が原形で、もちろん比べるべくもない。

しかし、木造の古い日本家屋であるという点で、現代のマンションなどとの比較でいえば、意外と近いところにあるようなのだ。

暗さ、湿っぽさ、低さ、内と外の連続性、軋みや傾き。そこでは腰を下ろしてくつろいだり、そのまま寝そべったりする生活が前提となっている。

外に誰も見学者がいないことで、いっそうリラックスして住人であるかのように振るまえたのかもしれない。日本家屋には、建物と人間とか主従関係ではなく、フラットに付き合えて、そのまま外部の自然へとつながれるような仕組みが備わっているような気がする。