大井川通信

大井川あたりの事ども

そうだ、黒島伝治を読もう!

ミヤマガラスの話題のたびに、『渦巻ける烏の群』(1928)の名前を出しているが、実際に読んだことがない。これでは知識を振りまわしているだけで説得力に欠ける。

それで手っ取り早く「青空文庫」で黒島伝治(1898-1943)をいくつか読んでみた。旧世代の人間としては、若い人がスマホで小説を読むのを、不思議なモノを見るようにながめていたが、実際にやってみるとこれは便利だ。

一昨年黒島伝治の故郷である小豆島を家族旅行で訪れている。今回は、僕と誕生日が一緒であることに気づいて、親近感を抱いた。

この小説は、シベリア出兵当時の日本兵の姿を描いている。極寒のシベリアに駐屯する兵士たちが、現地のロシア人女性の歓心を得ようと競い合う。個々の兵士にとっては強いられたものであっても、勝手に外国に攻め込んで、現地の人たちの貧しさにつけこんだ振舞いは、今振り返るとちょっと正視に耐えない。

上官の嫉妬と恨みをかい、部隊は雪のシベリアを徒歩で行軍させられ、行方不明となってしまう。翌春、大空に渦巻くカラスの大群が舞い降りる雪原に、カラスの餌食となった兵士たちの死体が発見される。

僕も、冬の田畑や電線に密集するミヤマガラスを見る機会は多いが、空中高く渦巻く群れを見たことは、せいぜい一度か二度しかない。しかし、それは忘れられない印象的な光景だった。日本のカラスからは想像つかない習性だ。

明るい瀬戸内で育った黒島伝治が、シベリア従軍で出会ったミヤマガラスの異様な姿を記憶にとどめ、小説のクライマックスに使ったのだろうと想像する。