大井川通信

大井川あたりの事ども

『歩いて読みとく地域デザイン』 山納洋 2019

著者は「まち観察企画」というワークショップを主宰している。参加者は特定のまちを90分間自由に歩いて、再集合したあとそれぞれの見聞をシェアするというものだ。案内しないまち歩きであり、自分で観察し発見するまち歩きであるといえる。

本書では、まち歩きのための様々な「まちヨミのリテラシー」を紹介してくれる。「芝居を観るようにまちを観る」というイメージも共感できるし、そのためにまちの中にある「葛藤」、相反する二つの力に注目するという方法論も的確だ。まちに埋め込まれた伏線や力学を読み取るために、まちの登場人物(住民)が語るセリフに耳をすませるという姿勢もいい。

都市計画、建築、土木工学、産業地理学等にまたがる知識を「まちヨミ」の視点でまとめた類書はないと著者が自負するとおりの目配りの広さで、読み始めは、ちょっととんでもない本を手にいれてしまったのではないか、という気さえした。

ただ読み進めていくうちに、これらはまち歩きの成果物であり、自ら発見しないと面白くはない、という当たり前の事実に気づくことになった。網羅的なまちのパターンの紹介というのは、街歩きによる観察の面白さ自体を示すには、あまりふさわしくないのかもしれない。

芝居通になって、芝居に関する知識やパターンを熟知することは、かえって純粋に芝居を楽しむことを遠ざけてしまうこともあるだろう。著者のねらいも、読むための本というより、まち歩きのための手引きというところにあるようだ。

僕自身は、あちこちの任意のまちではなく、自分が住んでいる地域に限定してまち歩きとまちヨミを続けている。その分、山や川、生物等の自然界にも目を向けているが、人間界については視野が狭くなりがちだ。それを補うために、本書を活用してみたいと思う。