大井川通信

大井川あたりの事ども

『追憶する社会』 山 泰幸 2009

自分の中心軸に沿ってそれを明らかにする読書をしたいと思うが、その本を自分が心から楽しめるか、が一つの基準になる。民独学の本は、今までそれほど読んだわけではないのだが、読んだときは決まって楽しめたし、気になった本は買いためてある。

それで、積読のこの本を手に取ってみた。民俗学の理論書だが、具体的な内容があるので面白くさらさらと読めた。

民話や伝説の意味をパターン化して内在的に探ろうとする従来の民俗学の定説的な解釈にあきたらずに、その外側にあるものとの関連で読み解こうというのが著者の基本的なスタンスのようだ。村落共同体の中の様々な言説群やその歴史的な変遷とのかかわりとか、もっと広い思想的・社会的文脈との関連が問題にされる。

この問題意識は、「大井川歩き」を素人臭い手つきで行っている僕にも、感覚的に共感できるものだ。ただ、僕の学識不足もあって、貨幣論や他者論を使っての民俗資料解釈はピント来なかったし、社会的文脈との関わりという面白い論点も、分量が少ないこともあってやや突っ込み不足という印象だった。

ただ古墳や伝説が、地域の近代化や現代のまちづくりとどうかかわるか、といった論点は、大井川歩きと直結するところだから、今後じっくり考えたいと思う。糸島や玄海など県内の伝承が取り上げられているのも親しみがもてた。特に古墳については、僕のフィールド内の伝説が引用されているのには、少し驚いた。