大井川通信

大井川あたりの事ども

『ミリアム』 トルーマン・カポーティ 1943

カポーティ(1924-1984)が19歳の時の短編。読書会の課題図書で読んだ新潮文庫の短編集『夜の樹』の中の一篇。

やはりミリアムが何者かということが話題になったけれども、ミセス・ミラーの別人格や 分身として受け取る意見が主流だった。
孤独で地味に生きてきた初老の女性が、自分の内面で育み育てた、我がままで粗暴な美少女という別人格。単なる幻想とも受け取れるし、分身として物質化したのかもしれない。

僕もはじめはそう読んでいたけれど、ミリアム自身は、直前まで貧乏な老人と同居していたと告白している。心理的な解釈よりも、孤独な都会の単身者の心の隙に付け込んで、その住居に寄生して生活する都市に住む妖怪、とでも考えたほうが面白いかもしれない。相手の心を読んだり、相手の名を名乗ったりするのも、宿主の心を操るための手法なのだろう。

宿主に要求を突きつけるばかりだから、おそらく座敷わらしのような御利益はない。ミセス・ミラーは、あやうく老人タイプの妖怪からも寄生されそうになっている。都会にはいろいろなタイプのこの種の妖怪が徘徊しているのだろう。そうそう、無害だけれど断固としてオフィスに居つくというバートルビーメルヴィル)タイプの妖怪もいたっけ。

カポーティの小説は、おそらく意味や観念からストーリーを組み立てているのではなく、何より自分のツボにはまった(今は「ツボる」というのだろうか)場面や情景を描きたいという欲望に支えられている気がする。だから19歳で、大人たちがさまざまな解釈をかきたてられるようなリアリティある小説を書くことができたのだろう。

短編集では、破天荒な10歳の美少女が登場する『誕生日の子どもたち』と、実に魅力的な老女と子どもの友情を描いた『感謝祭のお客』がよかった。