大井川通信

大井川あたりの事ども

『ハツカネズミと人間』 スタインベック 1937

読書会の課題図書。人間には仲間と土地が必要だ、という話。

【演劇】

レニーとジョージの(おそらくは不幸な)行く末が気になって途中までは、読むのがつらかったが、ある部分から急に読みやすくなった。カーリーの妻の死の場面のあたりで、これが演劇の舞台に近いことにと気づいたからだ。

視点が不自然に固定されて、登場人物たちの振舞いがどこか客席を意識したものになる。最後の場面のレニーの一人芝居もとても演劇的だ。この芝居のような枠組みが、二人の死という悲劇を、象徴化して救いのあるものにしているように思える。

ユートピア

自分の土地から採れる一番いいものを食べて、仲間と動物といっしょに自分の思いのままに暮らす、という彼らのユートピアは、人として健全でどの時代でも通用する普遍的なものだと思う。

これに比べると、かつての日本の「庭付き一戸建てのマイホーム」を持つという夢(そこには仕事も食べ物も自由もない)が、いかに偏ったものだったかに気づかされる。僕自身もそれに無意識にとらわれていたのだが。

【神話】

ジョージとレニーの農場の夢を語る物語が、まるで現代の神話のように迫ってくる。初めは、レニーにせがまれていやいや語ったジョージも、次には自分から熱っぽく語り、その語りにキャンディ老人も黒人のクルックスも巻き込まれる。最後には、死を前にしたレニーへの追悼のために物語られる。

場面転換を貫いて同じ所作や言葉を繰り返し、作品世界の自立性を高める仕掛けも演劇的だ。