大井川通信

大井川あたりの事ども

犬鳴峠の怪

久しぶりに車で、犬鳴トンネルを抜ける街道を使う。妻の要望で久山町の植木屋に行った帰り、次男を職場に迎えに行こうということになったために、その最短の経路だったからだ。

犬鳴峠は、今では全国的に心霊スポットみたいな場所として著名だが、地元ではずいぶん以前からいろいろと噂されていたようだ。この地方に越してきたばかりのとき、地元の人から、「いぬなき」ではなくて「いんなき」だと教えられたのが印象に残っている。

有名な殺人事件があったりした場所だが、妻が自分の体験した事件について話してくれた。妻が地元では有名なヤンキーの多い高校に通っていた頃だというから、いまからもう40年以上前の話だろう。

妻のクラスの仲のいい友人が、彼氏のバイクに乗って、夜のツーリングに出かけた先が犬鳴峠だったそうだ。やはり当時から若者に恐いもの見たさの場所だったのだろう。そこで事故を起こし、二人とも亡くなってしまったのだが、その死因が水死だったという。

二人とも道路脇の側溝に頭を突っ込んで意識を失ったために、側溝のわずかな水で窒息して亡くなってしまったのだ。事故だから特別に記録に残ってはいないのだろうが、やはりいろいろあった場所なのだ。

暗く長いトンネルを抜けると、巨大な犬鳴ダムを見下ろす橋の上で、突然空中高く投げ出されるような感覚をおぼえる。僕には、この場所が一番こわい。