大井川通信

大井川あたりの事ども

『ノーサンガー・アビー』 ジェイン・オースティン 1817

自負と偏見』が面白かったので、オースティンの6つの長編小説を読んでみようと思い、一番薄くて読みやすそうな一冊を手に取った。22、3歳の時書かれて、27歳の頃推敲後完成されたものの出版の機会に恵まれず、ようやく没後に本になったそうだ。

残念ながら『自負と偏見』ほどの完成度はなく、その分ストーリーに没入することはできなかった。時々、作中に語り手が登場することもあって、リアリズムというよりもユーモア小説(どこかに元祖ラブコメという評があった)という印象だ。

登場人物たちの描写も極端で、善玉と悪玉がはっきり分かれている。とくにジョンとイザベラの兄妹は、自分勝手な性格が無慈悲に誇張して描かれている。二人のふるまいが読者の笑いを誘い、ストーリーを意外な方向に導くのだけれども。

主人公のキャサリンは17歳ということもあるだろうが、『自負と偏見』のエリザベスほど大人ではなく、むしろ妹たちに近い。一本気で空気が読めなかったり、社交上のうわべの言葉や態度を真に受けたりもしてしまう姿はとても幼い感じだ。ただし、エリザベス的な正義感や己を出す強さは垣間見れる。

キャサリンの特徴は、ゴシック小説が大好きで、その舞台となるような古い建物も魅力にひかれているという点だ。タイトルのノーサンガー・アビーとは、キャサリンが招かれて滞在する旧修道院のお屋敷の名前で、その屋敷での冒険と屋敷の主人であるティルニー将軍との「対決」が後半の山場となる。

クライマックスでの展開はさすがに目が離せなかった。全体をふりかえると、十分面白い小説だとはいえるだろう。しかし、登場人物が作り物めいてあまり生きている感じがしないのは、傑作『自負と偏見』の後に続けて読むとどうしても気になってしまう。