大井川通信

大井川あたりの事ども

『自負と偏見』 ジェイン・オースティン 1813

読書会の課題図書。これは僕が選んだもの。何年か前、職場の若いイギリス人の女性がオースティンのファンだと言っていたので、薄い英文の要約版で読んだことがある。面白かったので、原作を読みたかったのだ。実際にとても面白かった。

作中の名言を選ぶという課題を考えてみた。印象に残る思慮深い台詞が目立ったからだ。ページ数は新潮文庫版。

 

「感想がどう違うか、比べ合えばいいんです」(154頁)

※ダーシーが、エリザベスに舞踏会で本の話をしようというと、同じ本を読んでも感想はぜんぜんちがうからと拒まれる。その時、ダーシーからまさかの読書会の提案!

 

「わたしはただ、自分の幸せは自分で選ぼうと決心しているだけです。あなたにも誰にも、気がねするつもりはありません」(563頁)

※レディ・キャサリンから、高圧的にダーシーとの結婚を否定されたときの、エリザベスの言葉。すでにダーシーからの申込を断っていて結婚は難しそうな状況でも、お茶を濁さずに原則論を貫く強さと凛々しさ。

 

「人間が生きる目的なんぞ、馬鹿をやらかしてご近所を楽しませること、お返しにこっちもご近所を笑ってやること、それぐらいのものじゃないかね?」(572頁)

※エリザベスとの会話中のミスター・ベネットの言葉。得意の冗句だが、リディアの駆け落ち事件で近所からさんざん笑われたあとだけに、この発言は深い。

 

登場するカップルの中では、とくにベネット夫妻の印象が強かった。

若き日のミセス・ベネットの美貌に夢中になって出身階級の違う彼女との結婚を強行したという、現在のミスター・ベネットからは想像できないエピソードが背景にあるのが味わい深い。

ミセス・ベネットの二人の兄弟は常識人のようだから、彼女も階級上昇の成功体験に縛られることで浪費家となり現在の人格となってしまったのかもしれない。だとしたら大富豪ダーシーの婦人となるエリザベスが同じ轍を踏まないという保証はない。

結婚相手の変貌に対しても、それを批判したりがっかりしたりするのではなく、相手の「愚かさ」を見て楽しむというミスター・ベネットのスタンスはとても勉強になる。

また、わずか一年で三人の娘に結婚相手を見つけて、うち二人は富豪という結果は、何気にミセス・ベネットの一人勝ちとも言える状況だ。得意の絶頂でやり放題の妻と、交際が広がって冗句と皮肉をふるう機会を増した夫とのパワーアップした夫婦漫才から目が離せないだろう。