大井川通信

大井川あたりの事ども

『流浪の月』読書会報告

地元の少人グループでの初の読書会の試みが終了した。もともとビブリオバトルを主催する団体のメンバーであり、仕事以外にも市民活動等でグループワークに長けた人たちだ。自分の考えをつくったり、それを簡潔にまとめて人前で話す経験を持っている。新参者の僕以外は、メンバー間で気心も知れている。

こういう好条件があったためか、課題提出型の読書会の進行は、予想よりずっとスムースだった。課題の回答のレポート提出を求めないという(僕には未経験の)やり方も、この環境にはむしろ会っていたようだ。回答を読み上げるのでなく、それぞれ顔を上げて自分の言葉で語るという自然な雰囲気となった。

手前みそだが、一冊の本をいろいろな角度から(きわめて短時間にも関わらず効率的に)語りあうことの面白さと充実感を味わってもらえたと思う。試行の結果どうなるかと思ったが、毎月やりたいという声まで出た。しかし、僕の側のキャパから隔月開催にしてもらった。やっぱり「運営」側に回ると、参加者に喜んでもらえる場づくりに意識をとられて、これはなかなか大変なことに気づく。会を気楽に楽しむわけにはいかない。お世話になっている主催者さんたちにあらためて感謝!

参加者の一人からの感想にもあったが、各人の読み方は、やはりおどろくほど違う。というわけで、課題への自分の回答を記録しておきます。

 

1.この小説で印象に残った表現をとりあげて、そのページ数を教えてください。(複数可)

第一章の場面の謎が、終章で種明かしされるところ。

 

2.登場人物(更紗、文、亮くん、谷さん、安西さんなど)の中で、特に気になった人とその理由を教えてください。

・更紗の母親 小説の原点(元凶)のような気がする。「居心地がいい」教の教祖。

・母親は、更紗を否定することなく、何でも好きなことをさせてくれる。更紗は、自分が否定されずにやりたいことができる「自由」を植え付けられるのだ。だから母親がその「自由」によって家を出て行ったとき、更紗は自分を捨てた母親に向けるべき非難を、自分に不自由を強いる周囲にぶつけることになる。

・更紗は、かつての自分の家庭を思わせる居心地のいい文との共同生活を、ユートピアとして求め続けることになる。

 

3.この小説では、ネット上の犯罪報道(個人情報)の在り方が問われていますが、今までに何か問題を感じた犯罪報道等があれば、それを具体的に教えてください。

イエスの方舟事件

・近郊の主婦や少女がいかがわしい教会に入り浸って集団失踪した事件。代表による洗脳や拉致が疑われたが、実際は自主的な入会で、家族関係の抑圧が原因だった。「漂流」しながら、以後50年以上、新しい人間関係を維持して共同生活を続けている。

 

4.更紗と文の20年後の関係を想像してみてください。この本を続編があるとしたら、どんな展開になっていると思いますか。

・このまま二人きりでは、いつか居心地の悪さを感じたら、あっさり別れてしまいそう。

・最初と最後に顔を出す「梨花」の存在がヒント。同じような境遇の少女たちとゆるやかな共同生活を始める。新しいライフスタイルのブランドを立ち上げて、ネット販売などで生計を立てる。

 

5.この小説全体の感想をおしえてください。また、この小説を一言(キャッチコピー)でまとめてみてください。ちなみに文庫本の帯には「愛ではない。けれどそばにいたい」「新しい人間関係への旅立ちを描いた、息をのむ傑作小説」とあります。

・終わりの50頁の直前までは、いらいらするストーカー話。

・ネタ晴らしで、二人が両想いであることが発覚し、めでたしめでたいの展開になる。

・「性的少数者」の人権が守られるようになっても、「小児性愛者」は社会的に認めずらい。文は性的疾患をもち本当の「小児性愛」でないとして救うのは上手いと思う。

・終わりよければ、すべてよし、ってか!